コラム

衆院選の勝敗と菅首相の去就を左右する秋の政局「3つのシナリオ」

2021年08月20日(金)11時27分

二階幹事長の去就と「シナリオC」

自民党全体で旧来の秩序が変動している中、最も注目されているのが二階俊博幹事長(帥水会)の去就だ。前回の総裁選で先手を打って支持を表明し「菅圧勝」の立役者となり、自民党幹事長として歴代最長在任記録を更新中の二階氏だが、総裁選を契機とする政治力学の変化と結果次第では幹事長退任となる可能性がある。大島理森衆議院議長は既に引退を表明しており、後継議長に細田博之氏(清和研)を押す声もある。定数見直しで二階氏の地元である和歌山県の衆議院小選挙区の定数も現状の3から2に減る。そのような中で、衆議院議長ならまだしも党副総裁などの実質的な「名誉職」に就くことを二階氏が受け入れるかは不明だ。

そこで、こうした諸々の不確定要素が考慮された結果、少なくとも総選挙の日程を出来る限り後ろ倒しにする選択肢がにわかに存在感を増している(シナリオC)。時間があればあるだけワクチン接種状況は改善し、臨時国会で経済対策の補正予算を成立させた上で総選挙に臨むという「王道パターン」を取ることができる。衆議院議員の任期満了は10月21日だが、任期満了当日に臨時国会を解散し、解散日から40日以内に総選挙を行えば憲法・公選法的に問題はない。その場合11月30日がデッドラインとなり、投開票日としては11月21日または28日が候補日程となろう。このシナリオだと、総裁選日程を9月中に済ませることも、コロナ感染拡大等の特段の事情があるという理由で総裁選を後ろ倒しすることも、ともに対応できる。

果たしていずれのシナリオが実現するか。9月1日に発足するデジタル庁事務方トップ(デジタル監)人事の適性問題や、太陽光発電関連会社「テクノシステム」に関わる東京地検特捜部の捜査など不確定要素は他にもあるが、なんと言っても重要なのは、菅首相のお膝元で8月22日に投開票される横浜市長選挙の結果だ。勝つか負けるか、僅差か大差か。野党候補の優勢も伝えられるが、その結果がシナリオ選択の帰趨を左右することになるだろう。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story