コラム

校舎が崩壊、医療サービスは1年以上の待ち、国内最大の自治体が自己破産...英国、債務危機の深刻すぎる現状

2023年09月07日(木)17時30分

バーミンガム市議会の議長と副議長は「本日の手続きは健全な財政基盤を取り戻し、住民のためにより強い都市を築くために必要なステップだ。現在、直面している困難にもかかわらず、最も弱い人々を支援するという私たちの価値観に沿って、住民が依存している中核的な公共サービスを優先する」と話した。

財政見通しが甘かったり、ズサンだったりしたため、破産に追い込まれた地方自治体は過去にいくつもある。英紙ガーディアンは「このような状況に陥ったほとんどの地方自治体はその後、公共サービスの支出削減を含む修正予算を可決したり、不動産やその他の資産を売却したりして帳尻を合わせる他の方法を見出している」と解説している。

「地元選出の市議会が自らの予算を管理するのは当然」

最大野党・労働党に20ポイント前後の差をつけられる保守党のリシ・スナク首相にとっては願ってもない巻き返しのチャンスだ。首相報道官は「中央政府は23年度、地方自治体に対する交付金を51億ポンド(約9440億円)増やした。バーミンガム市議会でも9%の増額になった。地元で選出された市議会が自らの予算を管理するのは当然だ」と突き放した。

ガーディアン紙によると、バーミンガム市議会は公共施設、高速道路、維持管理、緑地、地域団体への助成金など法定外の公共サービスの支出を削減せざるを得なくなる。バーミンガム空港の株式を保有し、105平方キロメートルの不動産を所有する同市議会には売却できる資産がある。

少なくとも26の地方自治体が今後2年以内にバーミンガム市議会と同じように自己破産する恐れがあるという。

英国では目を覆いたくなるような公共サービスの惨状が伝えられている。製造コストが安いものの、耐用年数が約30年と限られる「軽量気泡コンクリート」が使われた古い学校156校やその他の公共建築物で安全性を巡る懸念が膨らみ、次々と閉鎖されている。18年にはケント州の小学校職員室で軽量気泡コンクリート製の屋根が突然崩壊する事故が起きている。

英国家医療サービス(NHS)は税金と国民保険料で運営され、原則無償だが、5月末時点でイングランドだけで待機患者は750万人近くにのぼる。このうち子どもは41万6000人で、2万1000人以上が1年以上も待たされている。医師や看護師は賃上げを求めてストを打つ。学校も医療現場も予算不足に苦しんでいる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story