コラム

中国との「価値の戦争」に備えよ 日本やインドとも連携を 英保守党強硬派が報告書

2020年11月03日(火)19時14分

中国共産党的な価値にそぐわないものは潰してきた習近平(9月30日) Thomas Peter-REUTERS

トランプ米大統領の対中新冷戦とは一線

[ロンドン発]英下院外交委員会のトマス・トゥーゲンハット委員長が主宰する保守党下院議員の勉強会「中国研究グループ」が初の報告書『イギリスの対中関係』を公表し、「冷戦ではなく価値の戦争に備えよ。デカップリング(分断)ではなく、ダイバージェンス(相違)への対策を急げ」と提言した。

11月3日の米大統領選で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の圧勝が予想される中、対中強硬派の英保守党下院議員グループが米共和党のドナルド・トランプ大統領主導の対中「新冷戦」「デカップリング」戦略とは距離を置く姿勢を明確にしているのが大きな特徴だ。

ボリス・ジョンソン英首相も欧州連合(EU)離脱で意気投合したトランプ大統領からバイデン氏への乗り換えを急いでいると英メディアは報じている。

報告書をまとめたのは37年間、中国を専門にしてきた元英外交官チャールズ・パートン氏。「デービッド・キャメロン元首相の英中黄金時代からよりバランスの取れた対中関係に移行するには痛みを伴う。しかし再調整が欠かせない」

「中国研究家の元オーストラリア首相ケビン・ラッド氏はしばしばこう語った。中国共産党は弱さを軽蔑し、そして利用する。それに対して強さには敬意を表する、と」

「対策が遅れれば、国家安全保障と長期的な利益、そして価値観の"聖三位一体"を守りながら対中協力を最大化するのはさらに困難になる」とパートン氏は指摘する。

習近平主席の「7つの言わざる」

2013年に出された中国共産党の「第9文書」には「7つの言わざる」が列挙されている。

一、 西側の立憲民主制。権力分立、多党制、国政選挙、司法の独立。これは中国共産党の指導体制や中国型社会主義体制を脅かす。

二、普遍的な西側の価値観。これは中国共産党の理論的基盤を弱める。

三、 市民社会や、個人の権利は国家によって尊重されなければならないとする思想。これは中国共産党の社会的基盤を破壊する。

四、 制限のない市場原理を重視する新自由主義。完全な民営化と自由化。これは中国の経済システムを変革する。

五、 西側の「報道の自由」。これは中国共産党によるメディア、出版の原則を揺るがせる。

六、 例えば毛沢東のレガシー(政治的遺産)を否定するような中国共産党正史に対するニヒリズム。

七、社会主義体制の正統性への疑念。

中国共産党の正統性護持を使命とする習近平国家主席は演説や文書で資本主義に優越する「社会主義核心価値観」を前進させる一方で、西側の価値観を徹底して排撃してきた。中央集権化した習主席の核心的地位と中国共産党中央委員会の権威を守ることが最優先にされているとパートン氏は分析する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可

ワールド

司法長官指名辞退の米ゲーツ元議員、来年の議会復帰な

ワールド

ウクライナ、防空体制整備へ ロシア新型中距離弾で新

ワールド

米、禁輸リストの中国企業追加 ウイグル強制労働疑惑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story