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リオ五輪、英国のメダルラッシュが炙りだしたエリートスポーツの光と影
ピーティ選手の活躍を報じる英大衆紙デーリー・メール
12年には、将来メダルが期待できる有望選手としてUKスポーツから年1万5千ポンドの助成を受ける。コーチもUKスポーツのエリート・コーチング・プログラムに選ばれた。2年後、グラスゴーでの英連邦大会で五輪金メダリストを破った。五輪メダルが視野に入り、トレーニングに集中できるよう助成金は2万8千ポンドに引き上げられた。
オカネを出したからと言って、必ず結果がついてくるわけではない。その使い方が大きなカギを握る。英国はスポーツマネジメントが非常にうまい。課題をどう克服していくか、アスリートとコーチが話し合って目標を設定する能力に長けている。
近代スポーツは高速化、高度化、高密度化、高強度化が急速に進む。UKスポーツ傘下の研究所では宇宙工学や大学と組んで最新の生理学、技術、素材を導入している。日本ではスポーツ工学、スポーツバイオメカニクスなどの垣根が残るが、英国では異なる分野の知識を融合できる人材が育っている。
この成功は続かない
ロンドン五輪組織委員会会長を務めたセバスチャン・コーは1980年モスクワ五輪、84年ロス五輪の陸上男子1500メートルで金メダル、800メートルで銀メダルを連続して獲得した。英国では実力派のアスリートがその後、有力なマネージャーとしても活躍している。
英国のエリートスポーツは大きな花を咲かせた。メダリストは報道陣に対し、まじないのように「国営宝くじさん、ありがとう」と応じる。しかし、スーパーヒーロー、ピーティ選手が育ったイングランド中部のダービー市スイミングクラブは一時、閉鎖寸前にまで追い込まれた。練習に使っているプールの老朽化が進み、3カ月近く使えなくなったからだ。
2つあるプールのうち1つはいずれ使えなくなる。25メートルプールを本格的な50メートルプールに拡張したいが、地方財政は逼迫している。ピーティ選手の金メダル効果で何とか市民の理解を得たいところだ。
【参考記事】オリンピックの巨額予算に僕が怒る訳
エリートスポーツと草の根スポーツ、一体どちらが主役なのだろう。草の根スポーツとして大きな可能性を秘めるバスケットボールやバレーボールへの、UKスポーツからの助成はゼロ。五輪など大きな国際大会で入賞が期待できないからだ。
エリートスポーツの成功は五輪を開催した後の2大会しか続かない。五輪への情熱を政治が急速に失っていくからだ。08年北京五輪を開催した中国と英国の逆転は一瞬の現象に過ぎないが、エリートスポーツの残酷な限界を物語る。
草の根スポーツが衰退すれば、その頂点に立つエリートスポーツの未来も閉ざされる。英国でも草の根スポーツの意義がリオ五輪での成功で改めて問われている。五輪開催をめぐってゴタゴタが続いた日本では草の根スポーツとエリートスポーツの関係はどう描かれているのだろう。