コラム

米朝合意で市場開放が予想される北朝鮮。日本が事を急ぐ必要がない理由

2018年06月13日(水)13時00分

実際に動いたプロジェクトを見ても、イタリア企業、英国企業、韓国企業など多国籍な名前が並ぶ。アメリカは、軍事力や外交交渉で市場開放を実現するが、そこで得られた最初の投資機会はむしろ友好国に開放しているのだ。

アメリカはせっかくのチャンスを逃しているように見えるがそうではない。アメリカが市場開放要求に動けば、各国は市場参入のチャンスと色めき立ち、アメリカにすり寄ることになる。結果的にアメリカをリーダーとする緩い連合体が形成され、アメリカの相対的な立場は強化される。

成果を見定めてからでも遅くはない

日本はアメリカの言いなりで、外交において独自性を発揮できないとの指摘は多いが、こうした従属的なスタンスは、日本人のメンタリティの弱さだけが原因ではない。「カネ」の話を持ってくるのが常にアメリカであり、その手前、頭が上がらないという現実があることを忘れてはならないだろう。逆に言えば、アメリカはリーダーシップを発揮する方法をしっかり心得ているということになる。

ちなみにアメリカは、リーダーシップを発揮するために、経済的な利益をすべて犠牲にしているわけではない。当然のことながらアメリカ企業も市場開放から利益を得ている。

アメリカの直接投資の内訳を見ると、経済水準の高い国への投資が多いことが分かる。つまりアメリカが投資する先というのは、ある程度、経済が成熟した国であり、リスクの高い新興国への投資については意外と慎重なのだ。アメリカがベトナムへの投資を本格化させたのは、日本や韓国の投資が効果を発揮し、同国がかなり豊かになってからである。

つまりアメリカは、軍事力が外交努力を通じて市場開放のきっかけは作るものの、リスクが高い初期段階での投資は友好国に任せ、経済が成長してから、ゆっくりと付加価値の高いサービスを売り込むのだ。日本は、アメリカのこうした狡猾さからもっと学ぶ必要があるかもしれない。

拉致問題の解決に経済カードを用いるのは有効な手段だが、実際に北朝鮮市場でビジネスをするのは、拉致問題が解決し、北朝鮮の市場が安定してからでも遅くはない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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