コラム

米朝合意で市場開放が予想される北朝鮮。日本が事を急ぐ必要がない理由

2018年06月13日(水)13時00分

マイク・ポンペオ米国務長官は今年5月、米紙とのインタビューにおいて、北朝鮮の完全な非核化が実現した場合、米国が北朝鮮の経済再生を支援し(実際には日本が資金負担する可能性が高い)、アメリカ企業による北朝鮮投資を認める方針を明らかにしている。電力網の構築や農業など具体的な分野にも言及しており、水面下では具体的な投資案件が進んでいる可能性が高い。

軍事力や外交といった直接的なパワーと、ビジネスや金融という間接的なパワーは車の両輪であり、常にセットで考えるべきものである。アメリカは経済制裁の解除と市場開放をセットにして交渉を進めることを常としており、これまでもイラクやアフガニスタン、ベトナムなどに対して同様の手段で市場を開拓してきた。

北朝鮮に対する制裁が解除されれば、アメリカをはじめとする諸外国の資金が流入し、電力網や鉄道、高速道路、携帯電話といったビジネスが外国企業に開放されることになるだろう。韓国や中国ではすでに関連銘柄の株価が高騰するなど、市場がざわついており、日本でも解放後のビジネスチャンスに期待する声が一部から上がっている。

外交交渉がビジネスチャンスになることは多くの人が認識しており、日本もこうした手法をフル活用すべきとの意見は多い。日本は拉致問題を抱えているが、日本に対して資金提供の期待が高まっているのなら、これを逆手に取り、経済援助と拉致問題の解決、そしてインフラ整備事業への日本企業の関与についてパッケージ・ディールにするやり方は十分にあり得る。だが、ここは少しだけ冷静になった方がよい。

これまで閉鎖的だった国が市場開放を行うというのは確かにビジネスチャンスだが、必ずしもすぐに市場に参入するのがよいとは限らないからだ。これは当事者であるアメリカの過去の動きを見れば分かる。

アメリカは市場開放を要求した国にあまり進出していない

アメリカはこれまで、閉鎖的な国に対して外交圧力を加えることで市場開放を促し、多くのビジネスチャンスを作ってきた。だが一般的にイメージされているほど、アメリカは経済制裁を解除した国への進出や投資を行っていない。

アメリカは1994年にベトナムへの経済制裁を解除し、日本を含む各国はベトナム投資ブームに湧いた。だが、2016年までに各国が行った直接投資(累計額)におけるアメリカのシェアはわずか10%以下である。米国の制裁解除をきっかけにベトナムに大規模な投資を行ったのは日本や韓国なのである。

アメリカが直接戦争を行ったイラクでさえ、アメリカのプレゼンスは意外と低い。バグダットが陥落した2003年以降、イラク政府は外国からの投資を開放しているが、イラクへの直接投資の中でアメリカが占める割合は多い時でも25%程度である(イラクは統計の信頼性が不十分なので詳細は不明)。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外相、キューバ外相と会談 国家主権と安全保障を

ビジネス

マレーシア、今年の成長予測上げも AIブームが後押

ビジネス

英建設業PMI、1月は46.4に上昇 昨年5月以来

ワールド

ドイツ企業、政府の経済政策に低評価=IFO調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 4
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story