米朝合意で市場開放が予想される北朝鮮。日本が事を急ぐ必要がない理由
マイク・ポンペオ米国務長官は今年5月、米紙とのインタビューにおいて、北朝鮮の完全な非核化が実現した場合、米国が北朝鮮の経済再生を支援し(実際には日本が資金負担する可能性が高い)、アメリカ企業による北朝鮮投資を認める方針を明らかにしている。電力網の構築や農業など具体的な分野にも言及しており、水面下では具体的な投資案件が進んでいる可能性が高い。
軍事力や外交といった直接的なパワーと、ビジネスや金融という間接的なパワーは車の両輪であり、常にセットで考えるべきものである。アメリカは経済制裁の解除と市場開放をセットにして交渉を進めることを常としており、これまでもイラクやアフガニスタン、ベトナムなどに対して同様の手段で市場を開拓してきた。
北朝鮮に対する制裁が解除されれば、アメリカをはじめとする諸外国の資金が流入し、電力網や鉄道、高速道路、携帯電話といったビジネスが外国企業に開放されることになるだろう。韓国や中国ではすでに関連銘柄の株価が高騰するなど、市場がざわついており、日本でも解放後のビジネスチャンスに期待する声が一部から上がっている。
外交交渉がビジネスチャンスになることは多くの人が認識しており、日本もこうした手法をフル活用すべきとの意見は多い。日本は拉致問題を抱えているが、日本に対して資金提供の期待が高まっているのなら、これを逆手に取り、経済援助と拉致問題の解決、そしてインフラ整備事業への日本企業の関与についてパッケージ・ディールにするやり方は十分にあり得る。だが、ここは少しだけ冷静になった方がよい。
これまで閉鎖的だった国が市場開放を行うというのは確かにビジネスチャンスだが、必ずしもすぐに市場に参入するのがよいとは限らないからだ。これは当事者であるアメリカの過去の動きを見れば分かる。
アメリカは市場開放を要求した国にあまり進出していない
アメリカはこれまで、閉鎖的な国に対して外交圧力を加えることで市場開放を促し、多くのビジネスチャンスを作ってきた。だが一般的にイメージされているほど、アメリカは経済制裁を解除した国への進出や投資を行っていない。
アメリカは1994年にベトナムへの経済制裁を解除し、日本を含む各国はベトナム投資ブームに湧いた。だが、2016年までに各国が行った直接投資(累計額)におけるアメリカのシェアはわずか10%以下である。米国の制裁解除をきっかけにベトナムに大規模な投資を行ったのは日本や韓国なのである。
アメリカが直接戦争を行ったイラクでさえ、アメリカのプレゼンスは意外と低い。バグダットが陥落した2003年以降、イラク政府は外国からの投資を開放しているが、イラクへの直接投資の中でアメリカが占める割合は多い時でも25%程度である(イラクは統計の信頼性が不十分なので詳細は不明)。
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