コラム

韓国「巨大与党」誕生の意味

2020年04月20日(月)10時40分

だからこそ、文在寅政権の真価は「自らが望む事」を実現できる環境が整えられた、この任期後半にこそ問われる事になる。だとすれば、問題はこの巨大で安定した勢力を以て彼らが「何を成し遂げるようとするか」である。しかしながら、現実には文在寅政権と与党、より大きく言えば韓国の進歩派は、この事態において自らが一体何をなすべきかについてのグランドデザインを有していない。韓国の進歩派は従来、これまでこの国を率いて来た保守勢力に対する、「抵抗・改革勢力」として自らを位置づけており、その主張や活動の多くはこれまでの保守派主導の政府が成し遂げてきた政策やシステムを「批判する事」に向けられてきた。しかしながら、国会での圧倒的多数を得た今、彼らは自らの望む多くの事を望むままに成し遂げる事が出来る、未曽有の機会を獲得した。

だからこそ、彼らがまず以て行わなければならないのは、この国を如何なる方向へと導き、どの様な具体的な制度を構築するかを決めることである。与党に加えて同じ進歩派に属する諸政党を加えれば憲法改正に必要な三分の二の議席も視野に入る中、そこでは最早「野党の抵抗」は改革を躊躇する理由にはならない。

野党も世論も無視できる立場

そして同じ事は対外政策についても言うことが出来る。僥倖に恵まれた強運な文在寅政権は、大統領選挙当時に自らが望んだ北朝鮮との対話を、米朝協議の実現という形で早々に実現し、新型コロナウイルス対策の成功で、その手腕に対する国際的評価をも手にしつつある。しかしながら、彼らがこの状況から韓国や朝鮮半島をめぐる状況をどの様に導きたいのかは、依然として不明確なままである。2019年3月の「三一運動百周年」と共に発表された「新韓半島体制」をはじめとする一連の政策構想は著しく具体性を欠いたものであり(例えば、「文在寅の韓半島政策」)、周辺国に何をどの様に具体的に求めているのか、対立する米中の間で韓国がどの様な役割を果たすべきかなどは、明確とはいえない。勿論、問題は日本との関係についても同じである。彼らは今や野党や世論の反対を気にせず、自らの施策を実施できる状況にある。世界経済が悪化を続ける中、日本との経済関係をどうするのか、また、アメリカが不満を募らせる中、棚ざらしになっている日韓GSOMIAをどうするのか。全てを実現できる状況が整った今こそ、彼らの判断が問われている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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