コラム

関係改善のその先にある日中関係

2015年12月29日(火)20時00分

2015年5月に訪中した観光業界関係者など約3000人を人民大会堂で迎えた笑顔の習近平 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

 2015年の日中関係は、関係の改善にむけて歩みはじめた一年であった。言論NPOと中国国際出版集団が2015年8月と9月に日中の両国民を対象として実施した共同世論調査によれば、日中両国社会の相手国に対する「良くない印象」は、ともに悪化のピークを脱しつつある。また政府関係者や実務者レベルでは、関係修復が試みられている。

 では、関係改善のその先にある2016年以降の日中関係は、どのような関係となるのだろうか。

 日中両国を取りまくアジア太平洋地域の国際情勢の変化は、日中関係を「改善するか、否か?」という問題意識だけで議論する時代は、もはや過去のものになったことを訴えている。二国間関係の関係改善の可能性という問いの先に、考えなければならない問いがあることを、私たちは認識しておかなければならない。

日中関係は改善しつつある

 2014年11月7日、日中両国の政府は、関係の改善に向けた政府間の「静かな話し合い」の成果として、4項目の「意見の一致点」を公表した。この直後の10日に、APEC首脳会議出席のために北京を訪問していた安倍総理と習近平国家主席との間で初めての会談がおこなわれた。こうして2年半ぶりに日中首脳会談が実現して以来、2015年の日中両国は、政治分野と民間分野において、一つ一つ交流を積み上げてきた。

 2015年4月には、インドネシアのジャカルタで開催されるバンドン会議60周年行事にあわせて、安倍総理と習近平国家主席との間で2度目の会談がおこなわれた。11月には日中韓サミット出席にあわせて、ソウルで安倍首相と李克強総理との間で初めての首脳会談があった。また同月末にクアラルンプールでの東アジア首脳会議の前に李克強総理と、パリでの国連気候変動枠組み条約締結国会議の会場で習近平国家主席と、安倍総理は立ち話をしていた。またこうした首脳交流を支えるように、日中与党交流協議会が開催されるなど、政党や議員間の交流もおこなわれた。

 対話と交流が積み上げられたのは政治分野だけではない。2015年は日中間で様々な交流が展開した。とくに象徴的であったのは、2015年5月に二階自民党総務会長が日中観光文化交流団の3000名を率いて訪中した際、習近平国家主席が人民大会堂で交流団を前にして演説したことであった。この演説は、翌日の『人民日報』紙の1面に「習近平、中日友好交流大会に出席し、重要講話をおこなう」との題字付きで、写真とともに報じられた。民間交流の意義を強調した習近平国家主席の演説を中国共産党の機関紙が報じたことのもつ意味は大きい。それは、中国指導部の公式のメッセージとして、日中関係の改善をすすめることの意義と必要性が、中国社会に対して伝えられたことを意味するからである。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story