コラム

関係改善のその先にある日中関係

2015年12月29日(火)20時00分

 2015年は、戦後70年という意味において日中関係にとってのメモリアル・イヤーであった。戦後70年を前にして安倍総理は、戦後50年の1995年に閣議決定された村山談話、戦後60年の2005年に閣議決定された小泉談話にならって、20世紀以来の日本の歩みを総括する談話を作成することを明らかにしていた。その内容とともに、「談話」への中国政府の対応に注目が集まった。

 現実には、中国の対応は抑制的であった。8月14日に閣議決定の後に公表された「内閣総理大臣談話」に対して、中国側は外交部部長ではなく副部長が在中国日本国大使に抗議をするのではなく、歴史問題に関する中国側の厳正な立場を述べるにとどめた。2013年12月に安倍首相が靖国神社を参拝した際には、外交部長が在中国日本国大使に厳粛な抗議をしていたとは異なる。中国側は、「談話」に満足はしないものの、抗議はしないという姿勢を示したのである。

 首脳交流に象徴されるように、日中関係は「改善」にむけて両国間の空気が温まっているようにみえる。そしてこれと同じ歩みで、2015年の両国政府は実務的な話し合いをすすめている。11月にソウルで開催された首脳会談では、(1)外相相互訪の再開を含むハイレベル交流の重要性を確認、(2)日中ハイレベル経済対話の2016年早期の開催、(3)日中両国間で海上における不測の事態の発生を防止するために、防衛当局間の空海連絡メカニズムの早期運用開始にむけて努力すること、(4)東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするために日中双方の法的立場を損なうことなく協力することを確認した「2008年合意」にもとづいて、東シナ海資源開発問題についての協議の再開を目指すこと、(5)経済・金融分野の協力を深化させること、について認識が一致した。このほか2012年5月に第1回会合が開催された後に開催されていなかった日中交流事務レベル海洋協議が、関係改善の雰囲気が出てきた2014年9月に第2回、その後15年1月と12月に第3回、第4回と開催されている。日中安保対話は、4年ぶりに2015年3月に第13回目の対話が開催された。

関係改善より重要なことがある

 日本社会の中国に対する認識は改善にほど遠いのかもしれない。2015年9月の「中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利70周年記念大会」での習近平国家主席による演説や軍事パレードが日本社会に与えた不安感は小さくない。海上保安庁によれば中国海警局の船舶は繰り返し沖縄県尖閣諸島の領海へ侵入している。また防衛省は中国海軍の情報収集艦が尖閣諸島南方や房総半島南東の接続水域の外側を往復して航行していることを発表している。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story