コラム

トランプを勝たせたアメリカは馬鹿でも人種差別主義でもない

2024年11月27日(水)18時41分
COP29前にロンドンのタワーブリッジに掲げられたトランプ

COP29を前に環境活動家がロンドンのタワーブリッジに掲げたトランプ米大統領批判の看板 CHRIS RATCLIFFE-REUTERS

<大衆の実感を味方に付けたトランプの成功と上から目線の民主党の失敗をイギリス人の視点から解説>

米大統領選でのドナルド・トランプの勝利について書くにはちょっと遅いかもしれないが、僕には「イギリスの視点から」いくつか思い当たるところがある。

米民主党は「進歩的」政党に共通の、ある欠点を示した――彼らは、自分たちこそが善人であり、勝利に値するのがむしろ当然、と考えてしまったのだ。彼らは決してこれを認めようとせず、むしろ正反対の主張をしていた(「われわれはあらゆる有権者のために戦っている!」)が、彼らの行動はむしろその逆だった。

まず、当然のことながら、民主党はジョー・バイデン大統領の任期の始めから後継者を育てる必要があった。2020年に現職のトランプを倒すにふさわしかった人物は、2024年もその任にふさわしい人物とは言えなかった。

候補者を選ぶための開かれた予備選が行われていれば、候補者の才能や欠点も明らかにできただろう。ところがそれどころか、非常に遅い時期に、バイデンは撤退を余儀なくされ、後継者が発表される事態になった。見よ、カマラ・ハリスが選ばれし者だ、というわけだ。

彼女には彼女なりの資質があるかもしれないが、それはアメリカ国内でさえもほとんど知られていなかった(ここイギリスでは「ハリスって何者?」という状態だ)。副大統領としての彼女の業績は標準以下と見なされ、当初は「お粗末」とまで思われていた。

さらに言えば、副大統領が党内「二番手の優れた大物」であることはめったにない。副大統領は大統領を「補完する」存在だ。つまり、バイデン大統領の場合は、誰かしら黒人で女性でより若い副大統領が、年配の白人男性であるバイデンとは異なる属性の層にアピールするのを手助けしていたことになる。

そもそも逸材でないからナンバー2に選ばれた?

また、マキャベリの理論を参考にできるのだとすれば、政治リーダーはしばしば、自分を上回ったり自分に取って代わるライバルになり得るような逸材とは見なしていない人物だからこそ、その人物をナンバー2に選ぶ。ハリスを大統領候補にした民主党はそこで、トランプに対抗する大統領候補が誰であれ十分素晴らしい人物であるかのように演じたのだ。

この態度は選挙戦の全体を通じて貫かれていた――トランプは悪者だがわれわれは明らかにそれより優れているので、するべきことは有権者にそれを「伝える」ことだけだ、と。これはわずかではあるが重要なほどに逆を行っていた

政党は、大衆のほうから自分たちのところにやって来てくれることを期待するべきではなく、自分たちが有権者のほうへ歩み寄る道を探さなければならない。民主主義制度のさまざまな良いところまで疑問視するのなら別だが、そうでないなら、間違った政党を選択した有権者を責めるわけにはいかない。

イギリスの労働党は、まさに長年、このパターンだった。自分たちのほうが優れているかのように振る舞い、何を求めるべきかを人々に指図し、自分たちが政権政党に選ばれないときには侮辱的だと感じていた。

内紛は労働党の歴史の大きな部分を占めており、それは通常、イデオロギー的にまぎれもない左翼運動を望む人々と、選挙で勝つためにそれを和らげたい人々との間の戦いに要約される。現首相のキア・スターマーと元首相のトニー・ブレアは後者のタイプで、労働党元党首のマイケル・フットとジェレミー・コービン(党を選挙での敗北に導いた)を賞賛するような前者のタイプからはひどく嫌われている。

ハリスは、そのどちらのカテゴリーにもうまくなじまなかったと思う。過去には、彼女は確かに、刑務所内の受刑者が性別を変更する権利を支持するなど、有権者がいわゆる「woke(目覚めた、意識高い系)の狂気」と呼ぶものの典型ともいえそうな立場を何度か示してきた。でも、選挙遊説ではそのような急進主義は示さなかった。ある意味、それは問題にはならなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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