コラム

イギリスで「リワイルディング(再野生化)」が支持される理由

2021年09月07日(火)16時00分

こうした整った庭にはこだわらず、芝生を伸ばしっぱなしにすることも「再野生化」の一環になる(写真はバッキンガム宮殿の庭) Henry Nicholls-REUTERS

<イギリスから姿を消した野生動物を数世紀ぶりに復興し、庭の芝生はあまり整え過ぎず――より自然に近い状態を目指す考え方が、注目を集めだした>

そろそろ夏の終わりで、僕の家の庭は落ちて腐ったリンゴや伸び放題のブラックベリー(雑草みたいによく育つ)や、壁を這うツタなどで完全に荒れている。だから母なる自然に関して書きたくなった。

先日、「タウンステーション」のプラットホームで、僕は見慣れない光景を目にした。シカが広場を動き回っていたのだ。街の真ん中にあるからこんなニックネームで呼ばれている駅だけに、珍しい出来事だった。

僕が見たのはシカ科のインドキョンで、たいていの人にはちょっとシカらしく見えない動物かもしれない。体が小さく脚は短めで、人によっては「ヒツジの一種」か何かに思えるだろう。

このシカを見て僕が最初に考えたのは、イギリスで長く続いたロックダウン(都市封鎖)のおかげでこんなにも自然が復活したんだな、ということだ。野生の動物が街や都市をうろつく姿がさまざまなケースで見られるようになっていた。

でも実際には、インドキョンは在来種ではなく、話はもっとありきたりなものだった。20世紀初頭に富裕層が中国から珍しいものとして輸入し、それが逃げ出して、天敵のいない環境下で繁殖した、ということだ。そして今、インドキョンは作物を食い荒らし、森林を破壊するから厄介者だと思われている。そして、家々の庭も。彼らは今や、近隣の田園地方から都市部にまで迫ってきている。日本から輸入した「Sika deer」、つまりニホンジカについても同じことが起こっている。

EUの農業政策から解放されたおかげかも

これまでに何度も「殺処分」が行われてきたが、ここ最近のアイデアは「リワイルディング(再野生化)」だ。より自然のままの状態を作りだそう、というもの。今回の場合は、オオヤマネコを呼び戻そうという提案がある。数世紀ぶりにイギリスにこの「大きなネコ」を連れ戻そうというわけだ(オオヤマネコがイギリスから姿を消して約1300年になる)。オオヤマネコはたくさんのシカを殺すし、どうやらその死骸の残りはより弱小な肉食動物たちのえさとなって、彼らの生存を支えているようだ。農家はオオヤマネコがヒツジも狙うからこの計画に反対するが、それでもオオヤマネコ復興案は支持を広げている。

オジロワシ(イギリス「最大の猛禽類」)もまた、農家の懸念をよそに、数年前にイングランドに再導入された。ビーバーも、500年姿を消していたがイギリス各地で呼び戻された。ロンドンの湿地帯に連れ戻そうという意見まである。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ一部占領を計画 軍事作戦を拡大へ

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売 本体価格4

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story