コラム

イギリスがEUよりも速くワクチン接種を進めているのはブレグジットのおかげ

2021年02月03日(水)17時00分

ワクチン接種を視察するジョンソン英首相(1月11日) EDDIE MULHOLLAND-POOL-REUTERS

<イギリスでは新型コロナワクチンの接種が進み、今や80歳以上の80%を含む700万人以上が1回目を完了した。このスピード感は、官僚主義的で横並びプロセス重視のEUを抜けたからこそ>

願わくば、暫定予定日は3月中、ひょっとすると4月のどこか、となるといいのだが。かなり曖昧な「日程」だが、3度目の全国的ロックダウン(都市封鎖)のさなかで心の平静を保つのに、その見込みは役立っている。

言うまでもなく、これは僕が新型コロナウイルスのワクチン第1回接種をいつ受けられるか、という話だ。その3月頃にはイギリス政府は、接種対象を50歳以上の人々(僕も最近ここに仲間入りした)にまで広げていることが「期待されている」。もちろん、それはコロナ危機の終わる日でもなければ僕個人の「解放の日」ですらない。でも、待ち遠しい重要な節目ではある。

強く印象を受けたことがいくつかある。まず、これは科学的、物流的な素晴らしい成果だということ。パンデミック(世界的大流行)の始まった頃、ここまで迅速にワクチン接種が実現することは期待できないだろう、とさんざん言われていた。

2つ目は、この局面でイギリスは他の国々(例えば僕たちがとても先進的だと考えている日本のような国)よりもうまくいっていること。3つ目は、EU加盟国のままでいた場合よりも「ブレグジット(EU離脱)したイギリス」だからこそこの状態をより早く実現できたことだ。

自画自賛しているように聞こえたら申し訳ない(イギリスのやり方があまりにお粗末に感じられる分野だってある。時間がかかり過ぎ、感染者数が多過ぎて手遅れになる「感染経路追跡」システムなどがその例だ)。でも、ブレグジット後にイギリスは、とにかく国として「終わった」だの、EUを出て没落しかあり得ないだの、「バナナ共和国(不安定な小国)」になる道を選んだだのと言われてばかりだっただけに、僕は今、イギリスを擁護したい気分になっている。ワクチンの現状は、こうした予想とは違う結果を示している。

「常識」を採用した英国

英製薬会社アストラゼネカは英政府の助成を受け、英オックスフォード大学と共同でワクチンを開発した。他のワクチンより安価で保管が簡単なため、世界中で大きな役割を果たす可能性がある。コロナはグローバルな問題で、このワクチンは医療がそれほど発達していない豊かでない国々に恩恵をもたらすだろう。

現時点では、80歳以上の80%を含む700万人以上の英国民が既に1回目の接種を受けた。これはドイツやフランスといったヨーロッパの国々での10万人当たりの接種率の5倍以上に当たる。事実上、イギリスは何カ月も先を行っているわけだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story