コラム

コロナ禍ではまった「未来予測ゲーム」

2020年12月09日(水)13時40分

お財布事情が改善した人も多い

僕は中古車市場も崩壊するだろう、恐らく自動車市場全体も打撃を受けるだろう、と確信していた。自動車は償却資産だから、合理的な人ならよほどたくさん車を使う場合にのみ購入すべきだろうが、ロックダウン期間中は車を運転してどこへ行くこともできなかった(外出禁止、家族を訪ねること禁止、休日を楽しむこと禁止......)。

だが一方で、人々は公共交通機関の利用をとても避けたがったから、(たまの買い出しなどでどんなにコストがかかることになろうと)人々はいつにもまして今、車を欲しがっているようだ。だからひょっとしたら、大都市圏外のバスは終焉を迎えるだろう、という「大胆予測」のほうがもっとマシだっただろう。あるいは長年の議論の果てにゴーサインが出された高速鉄道「HS2」の計画が中止されるだろう、というものでもよかったかもしれない。

科学ジャーナリストの友人は、今直面する危機はこんなにも大きく、こんなにも多くの科学の知が結集されているから、というシンプルな理由で、ワクチン開発は実現するだろうと言っていた。彼によれば、ワクチンはウイルスを完全に無力化するものではないかもしれないが、集中治療が必要なほどの重症化は防ぐことができるだろうということだった(彼がこの話をしたのは初夏だったが、近いうちのワクチン完成を期待しすぎないように、と警告されていた時期だった)。彼はむしろ、年末までに3種類のワクチンが臨床試験に成功するだろう、と予測しておく方が正しかったかもしれないけれど、それでも今思い返せばなかなか当たっていたと言えるだろう。

友人も僕も、(ネット上で貸し手と借り手を結ぶ)P2Pプラットフォームにいくらか出資してきた。コロナ以前はこの取引はうまくいっていて、毎年4~5%の利率で稼げていた。でもコロナが流行しだすと僕たちは、これからP2Pをどうしようかと相談し、友人はP2Pから撤退した(彼は全額の1.5%に相当する中途解約費を払った)が、僕は継続した。

事実上、僕たちは実際の金銭的な損得をかけて、正反対の予測をしたことになる。僕たちは、失業などのせいでデフォルト(債務不履行)が増加するであろうという点では一致したが、僕は、損失は途中撤退のコストを上回るほどではないだろう、というほうに賭けた。

さて、うんざりするようなロックダウンが続くにつれ、多くの債務者がせっせと借金を返済していることが判明した。つまり、彼らはこれまで「収入が十分にない」から借金をしていたのではなく、「過剰な支出をしていた」から借金していたのだ。そして今や彼らは以前より支出を抑えられるようになり(週末の高級レストランも無理、パリへの誕生日旅行もなし)、だからこそロックダウンは彼らのお財布事情を改善させた。僕も友人も、こうなることは予見していなかった。

とはいえ一方で、経済状況が悪化し、債務不履行に陥る人が増えているのも事実だ。これまでのところ僕は、債務不履行の増加のせいでP2Pの投資に対する収益率の減少が続いている(4月以来、利益率は2~3%にとどまっている)。それでも、今や銀行も金利を大幅に抑えているのが状況だ(多くの預金口座は現在、金利0%)。だから事実上、銀行にただ預金を預けておくよりもP2Pで貸し付けを行うほうがお得で、利益率の差は広がっていることになる。

こうした予測ゲームは頭の体操のような一面があるけれど、世界は完全なるカオスではないと思い知らせてくれる側面もある。予期せぬ出来事が至る所で起こっているが、裏側を理解できればそこには何らかの論理があるもの。僕たちは起こっていることを何もコントロールできないが、自分が影響をこうむる異常事態が発生したときに、少なくとも大きなショックは受けずに済む。

さて、それでは、東京オリンピックはどうなると思う?

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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