コラム

イギリスでもじわり漂う大麻容認の空気

2018年09月05日(水)18時00分

1930年代アメリカの禁酒法のよう

一方で、合法化に賛同する論調も目にする。大麻を合法化することで、状況を改善させられるというものだ。認可を受けた店だけが18歳以上の客だけに限定して販売できるよう、また、起こり得る有害な結果をきちんと警告表示することができるよう、法律によって規制すべきだ、と。大麻に課税すれば、政府の収入源にできるだけでなく、大麻価格をあまり気軽に買う気が起きないレベルに引き上げることもできる(今のところ、大麻を吸うのはアルコールを飲むのよりかなり安い。それこそ、若者が大麻を好む理由の1つだ)。

そのうえ、合法化で犯罪組織の収入源も奪われるし、もしかしたら一部の大麻使用者がよりハードなドラッグに手を出すのを抑止することができるかもしれない。その理論はつまり、現状では大麻を買ううちに、大麻だけでなくコカインやヘロインなどの「よりハードな」ドラッグを売る密売人に何度も接触するようになるということ。密売人はこう言って盛んに勧めてくる。「大麻が気に入ったなら、これもきっと気に入るよ......ほら、1回タダで試してみろよ......」

大麻解禁の声は、若者や「ヒッピー系」からばかり上がっていると思われがちだが、今年になって強引にこの議論を持ち出したのは、英保守党の元党首ウィリアム・ヘイグだ。彼は、これまでのドラッグ論争は「徹底的に取り返しのつかないほど負け」だったと主張。今やあらゆる政党から多くの政治家が大麻合法化を呼び掛けており、中には「医療用に限って」賛成という議員もいる(重度のてんかんや多発性硬化症のような症状に効果があるようだ)。

事実上、イギリスの大麻合法化論争は、1930年代アメリカの禁酒法のようなものだ。当然許されるべきだと多くの人々が考えているものを国が禁止しようとし、人々は法を無視してまでそれを手に入れるようになり、結果としてその状況が犯罪組織を潤わせる。

それでも僕は、政府が大麻合法化に踏み込むとはどうしても思えない。何らかの危険性があり違法だったものに対して、単純に「降伏して」合法化する、などということには、「平均的なイギリス人」なら拒絶反応を示すだろうから。

僕には解決策が分からないし、合法化に賛成も反対もしていない。今回このブログで取り上げたのは、これが現代イギリスの悩ましい難題であり、「嗅覚」のある人なら誰しも気付いている問題だからだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story