コラム

驚愕の英総選挙、その結果を取り急ぎ考察する

2017年06月12日(月)11時00分

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冒頭で僕は、コービンはうまくやっていけないだろうと「ほとんど全員が」考えていると書いた。この「ほとんど全員」に含まれていなかったのが、コービンの熱心な支持者層、あるいはコービン崇拝者とか狂信者だとかの一言で片付けてきた人々だ。

今となっては、彼らのほうがこの問題については僕よりずっと真実に近かったことが明らかになったし、僕はコービンがひどい選挙結果で辞任するか労働党崩壊を招くだろうとの前言を撤回するしかない。コービンは今や疑いようもなく労働党党首の座を守り、党をかなり左寄りに引っ張っている――これで、党内の反コービン派も、受け入れざるを得なくなった。

とはいえ、ちょっと気に留めておくべき点もある。労働党は選挙に勝利していないということだ。彼らは期待よりもはるかに良い結果を出し、直近の2015年の総選挙を上回る成果を見せたが、それだけだ。保守党にとっては過半数を失うという悲惨な結果になったものの、それでも保守党は第1党であり、民主統一党(DUP)と組んで連立政権を樹立する見込みだ。

実際のところ、イギリス独立党(UKIP)が自滅したおかげもあって保守党が前回2015年総選挙に比べてむしろ得票率を上げた、という事実はあまり注目されていない。要点になったのは、労働党との差が縮まって保守党が議席を減らしたことだ。

【参考記事】「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

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僕の事前予想で1つ当たっていたところもあった。スコットランド行政府首相でスコットランド民族党(SNP)党首のニコラ・スタージョンが、スコットランド独立の是非を問う2度目の住民投票を呼びかけたことが、何らかの反発を引き起こしたことだ。SNPは21議席を失い、その一部は、スコットランドでここ何十年も苦戦してきた保守党に奪われた。

信じ難いことに保守党がスコットランドで13議席を得て、スコットランドでは30年以上ぶりとなる成果を挙げられたことで、保守党はかろうじて救われた。スコットランド保守党のルース・デービッドソン党首は、今回の選挙で大成功した「もう一方の」勝者と言えるだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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