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コリン・ジョイス Edge of Europe
自虐ユーモアならイギリスに任せろ
パブで長年の友人と、気が滅入るようなおしゃべりをしていた。ロンドンの暴動、国会議員の経費スキャンダル、新聞社の盗聴事件、鉄道運賃の値上げ......。僕は、こんな国に住みたい人間なんているのだろうかと思い、友人にも聞いてみた。「イギリスにいいところなんてあるのか?」
友人はにやりと笑って「生まれながらのウィットさ」と言い、しばらく席を離れた。1人になった僕は、しばらく考えを巡らせた。彼の言葉はただの軽口なんかじゃなく、真っ当な答えだとつくづく思った。そう、イギリス人は自虐ユーモアに走る傾向がある。とりわけ自分の国の有力政治家や大物たちを笑い飛ばすのだ。
そのことについては、最近思うところが多かった。ちょうどイギリスの政治風刺雑誌「プライベート・アイ」が創刊50周年を迎え、メディアの注目を集めていたからだ。プライベート・アイはたぶん世界で一番おかしくて冴えている出版物。その50周年が話題になった理由の1つは、この雑誌が何年も生き残るなんて誰も考えていなかったからだ(おまけにこの雑誌は長年にわたって名誉棄損の裁判に大金をつぎ込まなければならなかった)。
イギリスには古くから風刺の伝統があるが、プライベート・アイはその典型例だ。尊大で偉ぶった人間の鼻をへし折り、彼らの無能さや腐敗を暴いてきた。だが、ただの「怒り」として表現するわけではない。それを笑いにしてしまうのだ。
■人を殺しながら逃げる「ブレア」
最近、テレビで『The Hunt for Tony Blair(トニー・ブレアを追え)』という素晴らしいコメディーが放送された。(元首相の)トニー・ブレアが前任者を殺して労働党党首の座に着き、その容疑が明るみに出るとさらに殺人を重ねながら逃走する、というストーリーだ。おかしかったのは「ブレア」が自分の置かれた状況を語るモノローグ。イラク侵攻や彼の犯したほかの失策を正当化した時とまったく同じような、言い訳がましい口調が笑える。
たとえばホームレスの男に正体を気付かれ、彼を列車から突き落としたブレアは、哲学的な様子で言う。「誰かが命をなげうつのは悲しいことだ......しかし、彼を殺害するという最終的な私の決断は、正しいものだったと思う」。
また、同僚2人を殺した容疑をかけられたブレアは、自分を憐れむように言う。「私はおそらく、世界で最も誤解されている人間だ」
イギリスのテレビで必見の番組の1つは、その週に起きた出来事をコメディアンやコメンテーターがおもしろおかしく分かりやすく話し合う『Have I Got News for You?(すごいニュースを教えよう)』だ。『QI』も似たような番組で、以前、広島と長崎で二重に被爆して生き残った日本人の山口彊(つとむ)をジョークのネタにして問題視された。
彼を笑いのネタにするなんて不適切だと、日本人が感じたのはよく理解できる。でも、ほかにもジョークのネタに選ばれている人が山ほどいることを日本人が知っていたら、少しは怒りも和らいだかもしれない、とも思った。
僕たちはたくさんのことをジョークにするが、そのネタは大抵、悲しくて動揺するようなものが多い。
こんなことわざがある。「笑え、さもなくば泣くしかなくなる」。これは僕自身にも当てはまる。イギリスの現状がひど過ぎると思える時もあるが、僕たちにウィットがある限り、なんとか生きていけるだろう。
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