増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(後編)
欧州経済は数年前の債務危機以降芳しくない状況が続いてきましたが、事業者負担が簡素化され、中立・公正な税制が確立されれば、欧州の実体経済の復活も実は視野に入ってきます。付加価値税を採用していない米国のように、ベンチャー企業が隆盛する最低限の税制面での環境も整います。特に小規模事業者やITビジネスの支援をしながらEU経済の活力を取り戻すとの目的をECが掲げる理由もそこにあるはず。
前編のル・モンド紙の記事は今回の伊勢志摩サミットではG7の枠では初めてのこととして、各国で格差・不平等の拡大でその将来への不安から中間層の不満が大きくなったことを強調しています。ECは付加価値税改革によって不正取引で徴税漏れしている実に80%を取り返すと試算していますが、それにより各国の税収増となれば現在のEUの付加価値税率の標準課税の最低ラインである15%の引き下げさえも将来的には可能となります。となれば逆進性・不平等の解消にも繋がっていきます。
欧州が不完全とし改革に着手した暫定制度と同様のシステムである日本の消費税制度をこのまま近代化する努力もせず、見直すこともせず、ひたすら増税だけを目指してよいものか。不正防止の強化、制度の簡素化、IT時代の経済へ小規模事業社の支援までも含めた対応を主眼におく欧州の取り組みについて、その詳細は今後順次公表される予定です。欧州の真摯な改革を参考にすることに、消費税制度の賛成派とて異論はないはずです。
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