コラム

冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは?

2021年12月28日(火)16時30分

「ウクライナ人が攻撃されたときに、自らを守るための訓練と装備を整えることを、我々は支援しているのです」と語るのは、2017年に米国のウクライナ特別代表に任命されたカート・フォルカー氏だ。現在は、欧州政策分析センタ(CEPA)の研究員である。

「バイデン大統領は、クリミアの併合、グルジアの一部の占領、選挙妨害、ナワリヌイ氏の毒殺(未遂)、ヨーロッパでの暗殺や毒殺など、多くの問題でロシアを追及しないことを選択したのです」

「モスクワとの二国間関係において、より安定した、予測しやすい関係を作りたかったのでしょう」

「ウクライナ側には、法の支配や司法、汚職問題、NATOとの相互運用性など、もっと実行すべき改革があるはずです」

確かに、民主主義サミットを主催するバイデン大統領は、9月にウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンを訪問したとき、NATOの加盟問題にあまり踏み込まず、ウクライナの汚職や統治(ガバナンス)の問題に苛立ちをもっていると報道されていた。

さらにフォルカー氏は「ウクライナがNATO加盟の準備ができておらず、アメリカが加盟を積極的に推進していないからと言って、この見通しを永久にテーブルから外すべきということにはなりません」とも語る。

ウクライナやジョージアなど「これらの国は、安全保障の方向性を選択する権利を持つ独立国です。たとえNATO加盟国になる準備が出来ていないと判断されても、彼らの権利は維持されるべきです」ということである。

責任逃れの証拠残し

次に、今一番米欧が気をつけているのは、ロシアに攻撃の口実を与えることだ。

だから言動には注意を払う。

バイデン大統領の発言は、もし本当にプーチン大統領が侵攻を決断した場合、「私たちが悪いのではない」「ロシアのせいでこうなったのだから、こう対処せざるを得なかった」と明言できるような、責任逃れの証拠残しであるように見えると分析される。

その点は、ロシア側も同じである。

バイデン大統領が弱腰を見せたから、プーチン大統領がありえない要求を叩きつけたとは見られていない。

プーチンの側も、「このように正式に要求したのに、相手はちっとも聞こうとしなかった」「だから、こう対処せざるを得なかった」という、責任逃れの証拠作りに見えると言われる。

また、クレムリンに近いとされるアナリスト、フョードル・ルキアノフの雑誌『Russia in Global Affairs』は、「最後通牒を思わせる」と述べているという。

つまり最初から、状況は変わっていないように見える。プーチン大統領の最終目標は不明なままである。国が経済制裁で壊滅的な打撃を受けてでも、ウクライナに侵攻するか否かという問いがあるままだ。

ロシアはもはや地域大国でしかなく、往年の面影はない。ロシア経済は、長年の制裁で、瀕死状態と言われている。

クリミア半島と黒海という戦略上重要な領土のためなら、ウクライナ領の南と東を目的とする可能性が高い。さらに、もし「ロシア発祥の地」とされる首都キエフを取り戻すためなら、さらに戦火は大きい恐れがある。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story