- HOME
- コラム
- パリの欧州・EU特派員
- ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特…
ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた
ファイザーワクチンの接種を受ける医療従事者。注射器に液を残さないのが肝心(写真はオーストラリア) Lisi Niesner-REUTERS
アメリカの製薬大手、ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、1つの小瓶から6回(6用量)の接種ができるとなっていたが、厚生労働省は9日、国内で用意されている注射器では5回しかできないことを明らかにした。
なぜこうなったのだろうか。こういう状況は、日本だけなのだろうか。
実は、欧州では1カ月近く前、一足先に問題になっていた。欧州の動きがアメリカに影響を与え、さらにバイデン新政権の動きがあり、今の状況が生まれている。一歩遅れた日本は、欧米で起きた事の影響を受けている。
欧州とアメリカで何が起きていたのだろうか。
注射したら液が残っていた
昨年の12月から今年の1月にかけて、ファイザー製(正確にはファイザー・バイオNテック)のワクチンが欧州やアメリカで投与されるようになり、医療従事者はあることに気づいた。
小瓶の容器には「5回分」と書いてあるが、6回分、時には7回分すら取れそうなほど残っている──と。貴重なワクチンなので、残さず使い切りたいと願うのは当然だ。
ファイザー製のワクチン容器は、特殊な形式をしている。よく見られる1回使い切りの形ではなくて、1つの小瓶に数回分が入っているのだ。
製品は、小瓶に1.8 mlの塩化ナトリウムを加えて希釈する(薄める)。これにより注射剤2.25 mlが得られる。そして各患者に与える注射は0.3mlとなっている。つまり、計算上では2.25 ml ÷ 0.3ml で、7回の投与すら可能である。
当時、ファイザー社は「5回分(5用量)」としていた。
なぜそのように、多めに入っているのだろうか。
ファイザー社は当初、6回目については特に言及していなかった。すべての製品が完璧に使用できるわけではないことを想定しての、研究所側による予防策だったのだろう(実際、注射器によっては6回分をとることができないのだから、良心的で的確な判断だったと言えるのではないか)。
さらに、仏『ル・フィガロ』の報道では、ボルドー大学病院の薬理科部長マチュー・モリマール氏がわかりやすい例えを言っている。完全に空にしようとする油の缶のように、「流れるには長い時間がかかり、最後には必ず滴が残ります」。ワクチンの「脂質生成物」の一部が、小瓶や注射器の壁に沈着しているからだという。
この筆者のコラム
危機下のウクライナに「ヘルメット5000個」 武器提供を拒むドイツの苦悩 2022.01.29
冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは? 2021.12.28
タリバン、国際資金枯渇の危機:米ドルで三重苦 アフガニスタンの財源は? 2021.08.30
タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実 2021.08.26
アフガン難民はどこへ? 受け入れめぐるEU加盟国の不満といさかい 2021.08.25