コラム

ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた

2021年02月12日(金)13時00分

ファイザーワクチンの接種を受ける医療従事者。注射器に液を残さないのが肝心(写真はオーストラリア) Lisi Niesner-REUTERS

アメリカの製薬大手、ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、1つの小瓶から6回(6用量)の接種ができるとなっていたが、厚生労働省は9日、国内で用意されている注射器では5回しかできないことを明らかにした。

なぜこうなったのだろうか。こういう状況は、日本だけなのだろうか。

実は、欧州では1カ月近く前、一足先に問題になっていた。欧州の動きがアメリカに影響を与え、さらにバイデン新政権の動きがあり、今の状況が生まれている。一歩遅れた日本は、欧米で起きた事の影響を受けている。

欧州とアメリカで何が起きていたのだろうか。

注射したら液が残っていた

昨年の12月から今年の1月にかけて、ファイザー製(正確にはファイザー・バイオNテック)のワクチンが欧州やアメリカで投与されるようになり、医療従事者はあることに気づいた。

小瓶の容器には「5回分」と書いてあるが、6回分、時には7回分すら取れそうなほど残っている──と。貴重なワクチンなので、残さず使い切りたいと願うのは当然だ。

ファイザー製のワクチン容器は、特殊な形式をしている。よく見られる1回使い切りの形ではなくて、1つの小瓶に数回分が入っているのだ。

製品は、小瓶に1.8 mlの塩化ナトリウムを加えて希釈する(薄める)。これにより注射剤2.25 mlが得られる。そして各患者に与える注射は0.3mlとなっている。つまり、計算上では2.25 ml ÷ 0.3ml で、7回の投与すら可能である。

当時、ファイザー社は「5回分(5用量)」としていた。

なぜそのように、多めに入っているのだろうか。

ファイザー社は当初、6回目については特に言及していなかった。すべての製品が完璧に使用できるわけではないことを想定しての、研究所側による予防策だったのだろう(実際、注射器によっては6回分をとることができないのだから、良心的で的確な判断だったと言えるのではないか)。

さらに、仏『ル・フィガロ』の報道では、ボルドー大学病院の薬理科部長マチュー・モリマール氏がわかりやすい例えを言っている。完全に空にしようとする油の缶のように、「流れるには長い時間がかかり、最後には必ず滴が残ります」。ワクチンの「脂質生成物」の一部が、小瓶や注射器の壁に沈着しているからだという。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、対中関税引き下げ検討か 半減案との情報 財務長

ワールド

OPECプラス8カ国、6月も生産拡大提案へ 実現な

ビジネス

米ボーイング、1-3月期の損失予想ほど膨らまず 航

ビジネス

米新築住宅販売、3月7.4%増 ローン金利低下で予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story