コラム

ノートルダム大火災の悪夢に今もうなされ続けるフランスの闇

2019年11月27日(水)16時20分

すぐに公式発表で「あれは消防士です」と発表されたために、表面上は静まった。しかし、ずっとくすぶり続けていた。結局、今に至るまで。

人々の疑惑には、理由がないわけではないと感じる。

普通消防士は、消防士独自のプロフェッショナルな服装をしている。火から離れた場所で働く消防士ならともかく、火災の真っ只中の建物の中にいる消防士が、あのようなごく普通に見えるベストを着るのだろうか......?

でも着用しないとは言い切れない。それに画像が荒すぎてよく見えない。


一般には「この人は消防士」という公式発表が信じられていると思う。しかし、この映像は「犯人は、イスラム教徒。あるいは黄色いベストの参加者」とネオナチのように主張する人たちの根拠のようなものとなってしまった。

なぜ今モスク襲撃が起きたのか

それにしても、火災から半年以上。なぜ今頃こんなことが起きたのだろうか。

もし理由を探すとしたら、すぐに思いつく事は二つある。

一つは、パリ警察本部で起こったテロである。

ノートルダムの火災からもうすぐ半年になろうとする10月3日、パリ警視庁内で、職員によるテロ事件が発生した。

フランスでは大きなニュースになった。当然である。外部の人間が治安関係者を狙うことは今までもあった。しかし今回は、警視庁の職員が、内部でテロを起こして同僚を殺したのだ。

問題は、パリ警視庁は、広場をはさんでノートルダム大聖堂の正面にあることなのだ。

テロリストは、IT職員として働くミカエル・アルポン。45歳。

彼は犯行前に、「アラーよ偉大なり」と妻に携帯メッセージを送った。妻は様子が変なので、自殺するつもりかと思ったという。

購入したナイフで警官3人、職員1人を殺害、2人を負傷させたあと、警官により射殺された。

彼はフランス海外県である中米のカリブ海に浮かぶ島、マルティニック島の出身だ。新しく入った人ではなく、もう15年近く警視庁に勤めていた。

もともとはイスラム教徒ではなかった。約10年前に改宗したのだ。彼が通っていたパリ郊外のモスクのイマーム(指導者)は、イスラム原理主義を擁護していた。

犯人の考えは、アル・カイーダなどが属する「サラフィー・ジハード主義」と言われる過激派思想である。イスラム国のプロパガンダに傾倒していたという。ただ、特定の集団からテロの指令を受けていた痕跡はなく、何か主張を叫んで犯行に及んだわけでもない。同僚たちは彼の過激派的な言動に気づいていたのに、対策がなかったことが批判された。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story