コラム

アジアの覇権をめぐる超大国間のせめぎ合いが、ミャンマー政変を引き起こした

2021年02月13日(土)14時30分

ミンアウンフラインの肖像を掲げるクーデター支持者 REUTERS

<近いうちに権力を失いかねないと懸念していた国軍がクーデターを起こすのは当然の成り行き>

ビルマ(ミャンマー)国軍のミンアウンフライン総司令官は間違いなく新聞を読んでいる。そして、未来を読もうともしているようだ。

2月1日、ビルマ国軍が昨年11月の総選挙で不正があったと主張し、クーデターを起こした。これは当然の帰結だ。2011年の民政移管以降も一定の政治的権限を維持してきた国軍は近いうちに、要職の指名権やカネ、ひいては権力を失うかもしれないと懸念していたからだ。

同時に、今回のクーデターは1月上旬の2つの出来事、すなわちQAnon(Qアノン)とトランプ前米大統領がそそのかした米連邦議会議事堂襲撃事件、および中国の王毅(ワン・イー)外相のビルマ訪問が引き起こした連鎖反応とも読める。

16年に文民政権が誕生して以来、国家顧問として実質的指導者の座にあったアウンサンスーチーは国軍との対立を慎重に避け、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する掃討作戦を支持してきた。

国軍総司令官の65歳の誕生日が持つ意味

それでも、人口の約7割を占める多数派民族ビルマ人の間での人気は衰えなかった。昨年の総選挙では、15年に行われた前回総選挙に続き、スーチー率いる与党が国軍系政党などを抑えて得票率80%超で圧勝している。

だがこうした事実も、国軍総司令官の65回目の誕生日が持つ意味には勝てなかった。

ミンアウンフラインは7月3日に65歳になるため、定年を迎えるはずだった。つまり、これまで軍が保持してきた要職指名権や人事管理権限、経済的決定権が失われるということだ。だがクーデターで引退の必要はなくなり、国軍が経済・人員的権限の多くを維持することになりそうだ。

アジア大陸の沿岸国の1つであるビルマは、アジアでの覇権をめぐる超大国間のグレート・ゲームの舞台だ。だが、その「ゲーム」もロヒンギャ弾圧や国軍総司令官の引退をめぐる考慮を避けては通れない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story