アジアの覇権をめぐる超大国間のせめぎ合いが、ミャンマー政変を引き起こした
アメリカは11年にアジア重視を掲げるリバランス(再均衡)政策を打ち出した。12年には、当時のオバマ米大統領がビルマを訪問。民政への支援を表明。中国の周縁でアメリカの影響圏を拡大することが目的だった。
経済制裁も緩和し、投資・貿易上の特権を付与する可能性を提案した。これは海洋超大国(アメリカ)が小国(ビルマ)に、国境を接する地域大国(中国)への拮抗勢力の役割を提供する事例の典型だ。
だが民主主義、人権、Qアノンとトランプ、地理的条件が理由で、ビルマに魅力的なインセンティブを提供するのは難しくなっている。ロヒンギャ弾圧はアメリカなどの国々の対ビルマ投資・支援に待ったをかけた。さらにアメリカは過去4年間、孤立主義的なトランプ政権の下で民主主義構築や他国への関与に背を向けた。
中国は今や最大の投資国
だが中国は民主主義も人権も気に留めず、ビルマ国軍指導層に具体的な恩恵を供与している。中国が援助する36億ドル規模のミッソン水力発電ダム建設計画は、民政移管後にビルマ政府が凍結を決定したが、中国は建設再開を求めて圧力をかけている。
再び始動したビルマの軍事政権は、ダムの経済的恩恵により敏感かもしれない。中国は最大の投資国でもあり、ビルマの外国投資の約3分の1を占める。
中国の王外相がビルマを訪問したのは1月11日。その3週間後にクーデターが発生した。中国外務省はビルマの「内閣改造」の動きと形容し、国連の非難声明案に難色を示した。対照的に、バイデン米大統領は対ビルマ経済制裁再開の可能性を排除しないと表明している。
今回のクーデターの当面の勝者は2人。定年間近のビルマ国軍総司令官と中国のリアルポリティック(現実政治)だ。
<本誌2021年2月16日号掲載>
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