コラム

アジアの覇権をめぐる超大国間のせめぎ合いが、ミャンマー政変を引き起こした

2021年02月13日(土)14時30分

アメリカは11年にアジア重視を掲げるリバランス(再均衡)政策を打ち出した。12年には、当時のオバマ米大統領がビルマを訪問。民政への支援を表明。中国の周縁でアメリカの影響圏を拡大することが目的だった。

経済制裁も緩和し、投資・貿易上の特権を付与する可能性を提案した。これは海洋超大国(アメリカ)が小国(ビルマ)に、国境を接する地域大国(中国)への拮抗勢力の役割を提供する事例の典型だ。

だが民主主義、人権、Qアノンとトランプ、地理的条件が理由で、ビルマに魅力的なインセンティブを提供するのは難しくなっている。ロヒンギャ弾圧はアメリカなどの国々の対ビルマ投資・支援に待ったをかけた。さらにアメリカは過去4年間、孤立主義的なトランプ政権の下で民主主義構築や他国への関与に背を向けた。

中国は今や最大の投資国

だが中国は民主主義も人権も気に留めず、ビルマ国軍指導層に具体的な恩恵を供与している。中国が援助する36億ドル規模のミッソン水力発電ダム建設計画は、民政移管後にビルマ政府が凍結を決定したが、中国は建設再開を求めて圧力をかけている。

再び始動したビルマの軍事政権は、ダムの経済的恩恵により敏感かもしれない。中国は最大の投資国でもあり、ビルマの外国投資の約3分の1を占める。

中国の王外相がビルマを訪問したのは1月11日。その3週間後にクーデターが発生した。中国外務省はビルマの「内閣改造」の動きと形容し、国連の非難声明案に難色を示した。対照的に、バイデン米大統領は対ビルマ経済制裁再開の可能性を排除しないと表明している。

今回のクーデターの当面の勝者は2人。定年間近のビルマ国軍総司令官と中国のリアルポリティック(現実政治)だ。

<本誌2021年2月16日号掲載>

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米がウクライナ和平仲介断念も 国務長官指摘 数日で

ワールド

米側の要請あれば、加藤財務相が為替協議するだろう=

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 ハマスが暫定停戦案
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story