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植物で「より母乳に近い粉ミルク」の大量生産が可能に? 新たなHMO生産法が大人にも「朗報」なワケ
(写真はイメージです) mapo_japan-Shutterstock
<現在の粉ミルクにはほぼ含まれていない母乳特有の栄養成分HMOを、遺伝子操作した植物を使って作成することに成功。その意義と今後の活用の可能性を、粉ミルクの歴史とともに概観する>
乳児は生後5~6カ月までは「お乳」のみで栄養を摂取します。その期間は、世界の乳児の約75%が粉ミルク(育児用調製粉乳)を多かれ少なかれ利用していると言います。日本でも、普段は母乳で育てていたとしても「体調が悪い時や災害などに備えてストックしている」というお母さんは多いでしょう。
「なるべく母乳と同じ成分の粉ミルクがほしい」という願いは世界中のお母さんに共通です。しかし、現在の粉ミルクには母乳特有の栄養成分HMO(Human Milk Oligosaccharide:ヒトミルクオリゴ糖)がほぼ含まれていません。HMOは約250種もあるうえ複雑な構造をしており、人工的に作って大量生産するのが難しいからです。
米カリフォルニア大学バークレー校、デービス校の研究者たちは、遺伝子操作したベンサミアナタバコ(学名:Nicotiana benthamiana)を使って、1度に11種ものHMOを作成することに成功しました。研究成果は、Nature姉妹誌で農業科学や食品科学を専門とする『Nature Food』に13日付で掲載されました。
乳児にとって母乳は完全栄養食です。母乳成分により近い粉ミルクを作れた場合、どのような優れた効果が期待できるのでしょうか。また、乳児以外にもHMOが活用される可能性はあるのでしょうか。概観してみましょう。
多くの企業が研究開発に参入
粉ミルクらしいものが、歴史上、初めて記述されたのは13世紀です。マルコ・ポーロの著作には、モンゴル軍が携帯食にしていた「日干ししたミルク」という記述があります。もともと遊牧民は、古くからウマやヤギの乳を乾燥させて粉末状にし、保存食として利用してきました。
その後、乳児用の粉ミルクが19世紀にロシアで生まれ、製造法が確立されてから約30年で商業化され製品として出回るようになりました。当時は母乳を飲めない赤ちゃんは命を失うしかなく、多くの命が救われたと言います。
日本では1917年、和光堂薬局(後の和光堂)が開発した「キノミール」が、最初の育児用粉ミルクとして登場します。キノミールは全脂粉乳に滋養糖を加えたものでしたが、現在の粉ミルクは砂糖類の添加はされていません。加工して無脂肪にした牛乳(脱脂粉乳)を原料とし、母乳に成分を近づけるために栄養分が調整されています。
粉ミルクは母乳の代替品ですから、当然、母乳に特有な成分であるHMOも再現できることが好ましいです。
HMOはヒトの母乳中では乳糖、脂質に次ぐ3番目に多い成分ですが、牛乳や他の哺乳動物の乳にはほとんど含まれません。そこで近年はHMOの人工合成と大量生産のために、欧米のスタートアップを中心に多くの企業が研究開発に参入しています。
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