コラム

夏に死ぬ人が増える? 地球温暖化で「死亡率の季節性」に変化か...4つの気候変動シナリオが示唆

2024年02月27日(火)20時15分
地球温暖化のイメージ

地球の健康と人間の健康は相互に影響しあっている──「温暖化が進むと死亡率の季節性は変わるか」という研究テーマには「プラネタリーヘルス」の観点が(写真はイメージです) Berke-Shutterstock

<⻑崎⼤学と東京⼤学の研究チームが、43の国・地域(707都市)の過去の死亡者数のデータを用いて、4つの気候変動シナリオに基づいた2000年から2099年までの日別死亡率を予測。その結果、ほとんどの気候帯で温暖な季節の死亡率が増加するという。影響が顕著になるのはいつから?>

2024年は春の訪れが早いようです。気象庁は15日、関東、新潟を含む北陸、四国で全国に先駆けて春一番が吹いたと発表しました。関東は昨年より14日、北陸は13日、四国は4日早いと言います。

冬は世界的に1年で最も死亡率が上昇する季節です。これは低体温になりやすいこと、免疫力が落ちやすいことに加えて、循環器系疾患の死亡率が冬に増加し、夏に減少することが大きな原因となっています。

中でも、近年、注目されているのが「ヒートショック」です。寒い場所から移動して急に熱い風呂に入るなど、急激な寒暖の差によって血圧が急上昇・急降下すると、血管や心臓に大きな負担がかかります。意識喪失や脳梗塞、心筋梗塞などが発生しやすくなり、死に至ることもあります。日本では、ヒートショックによる死亡者が1年に約1万9000人いると、厚生労働省が試算したこともあります。

もっとも、寒い冬の終わりが間近と喜ぶ反面、昨年の猛暑を思い出して憂鬱な気分になる人もいるでしょう。昨今は、熱中症などによって死亡する人が増加しており、暑い時期に身の危険を感じる人も少なくないのではないでしょうか。

⻑崎⼤⼤学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科のマダニヤズ・リナ准教授と東京⼤⼤学院医学系研究科の橋⽖真弘教授らの国際共同研究チームは、4つの気候変動シナリオに基づいた日別死亡率を予測し、気候変動(温暖化)によって将来的に死亡率の季節性が変化する可能性を示唆しました。研究成果は医学学術誌「The Lancet Planetary Health」に7日付で掲載されました。

地球温暖化は人々の「死にやすい季節」をどのように変えるでしょうか。概観してみましょう。

低温でも高温でも高まる死亡リスク

掲載雑誌の名前でもある「プラネタリーヘルス」は、「地球の健康(環境の状態)と人間の健康は相互に影響しあっている」という考え方です。

たとえば、人類の活動によって地球温暖化が進んで海水温が上がる、つまり地球の健康状態が変わると、ある海域に生息していた魚類は北に移動し、魚が獲れなくなることがあります。その結果、沿岸部の人々が十分なタンパク質を取れなくなって低栄養になり、健康に影響を及ぼす場合があります。

世界四大医学誌に数えられる「The Lancet」によってプラネタリーヘルスの概念が15年に提唱されると、すぐさま世界各国に広がり、大学や研究機関を中心に研究や普及活動が進められました。

ところで人は、気温がより低くなってもより高くなっても、死亡リスクが高まると考えられています。また、死亡者数には季節性があって、通常、寒冷な季節の⽅が温暖な季節よりも死亡率が⾼い傾向にあることも知られています。

ここにプラネタリーヘルスの観点を取り入れると、「温暖化が進むと、死亡率の季節性は変化するか」という研究テーマが現れます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story