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夏に死ぬ人が増える? 地球温暖化で「死亡率の季節性」に変化か...4つの気候変動シナリオが示唆
ロンドン大などの国際研究グループによる先行研究(17年)では、「温暖化に伴って、寒さによる死亡率は減少し、暑さに関連した死亡率は地球上のほとんどの地域で増加する」と予測しています。したがって、気候変動によって地球の気温が全体的に上昇すると、寒冷な季節の死亡率が低下する⼀⽅、温暖な季節では増加し、結果として死亡率の季節性が変わる可能性があると示唆されます。
もっとも、温暖化による死亡率の季節性の変化を実際に示したり、変化する場合はどの程度なのかを明らかにしたりする研究は、今日までほとんどありません。スペインの研究グループがヨーロッパの気候変動シナリオを用いて、月ごとの最大死亡率が冬季から夏季に徐々に移行すると予測した研究(11年)があるくらいで、地球規模でさまざまな気候帯における体系的かつ包括的な評価はなされていませんでした。
4つの気候変動シナリオ
今回、長崎大などの研究チームは、43の国・地域(707都市)の過去の死亡者数のデータを用いて、4つの気候変動シナリオに基づいて2000年から2099年までの⽇別死亡率を予測し、死亡率の季節性が将来変化する可能性を評価しました。
平均気温と死亡者数(全ての原因または⾮外因死に限定)の⽇別時系列データは、Multi-Country Multi-City Collaborative(MCC)共同研究ネットワークを通じて収集しました。1969〜2020年に発⽣した1億2680万9537人の死亡データから2つの極地域のデータ(いずれもペルー)を取り除き、最終的に705地点1億2676万6164人のデータを熱帯、乾燥気候帯、温帯、⼤陸性気候帯の4つの気候帯に分類しました
一方、気候変動シナリオは、共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways:SSP)が用いられました。
SSPは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長の呼びかけにより、統合評価モデルコンソーシアムが中心となって開発した社会経済シナリオです。2100年までに世界が取りうる方向性をSSP1~SSP5(1:持続可能、2:中道、3:地域対立、4:格差、5:化石燃料依存)の5つのシナリオで描いています。17年に発表されて以来、IPCC第6次評価報告書に反映されたり、パリ協定の気候目標の達成を探るために使われたりしています。
研究チームは、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、および SSP5-8.5を⽤いました。ここで各シナリオの後の数値(2.6、4.5、7.0、8.5)は、設定された放射強制力(気候変動を引き起こす影響の度合いで、概ね温室効果ガス排出量の増加に沿っている)を示しています。
具体的には、SSP1-2.6は温室効果ガスの排出を積極的に削減し、SSP2-4.5は気候変動に対処しつつ経済活動をする穏やかなアプローチを採⽤しています。SSP3-7.0は環境への焦点を減らして経済成⻑を重視し、SSP5-8.5は排出制御を最⼩限に抑えつつ経済成⻑を優先したシナリオです。2000年から2099年までの期間では、調査した707都市の年間平均気温は各シナリオで1.35℃、2.73℃、4.26℃、および5.55℃上昇する⾒込みになりました。
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