コラム

アポロ計画に果たせず、アルテミス計画に期待されること 月面探査の歴史とこれから

2022年09月06日(火)06時05分
新型ロケットSLSと宇宙船「オリオン」

ケネディ宇宙センターの発射台に設置された新型ロケットSLSと宇宙船「オリオン」、夜空には満月が浮かんでいる(6月14日、フロリダ州) NASA

<全体的に2年ほど先送りになっているアルテミス計画だが、ここにきてなぜ急がれるようになったのか。計画の詳細、月面探査の歴史、アポロ計画との違いを紹介する>

米航空宇宙局(NASA)は現在、「アルテミス1」のロケット打ち上げに取り組んでいます。もともとは日本時間の8月29日に打ち上げられる予定でしたがエンジンに問題が発生したため延期、4日未明の打ち上げも燃料漏れなどで再延期になりました。次の打ち上げ予定日について、NASAは今週に詳細を説明すると発表しています。

今回のミッションは、NASAが主導して欧州宇宙機関 (ESA) 、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 、カナダ宇宙庁 (CSA) 、オーストラリア宇宙庁 (ASA) などが参加する国際プロジェクトの有人月面探査計画「アルテミス計画」の第1弾です。

アルテミスとは、ギリシア神話に登場する月の女神の名前です。1969年から72年にかけて計6回の有人月面着陸に成功した「アポロ計画」の由来である太陽神アポロンと双子とされています。当初の計画では、2024年までに「最初の女性を、(アポロ計画以来の)次の男性を」月面に着陸させる予定でした。

アルテミス計画と月面探査について、概観しましょう。

スペースシャトルの後継

17年12月、ドナルド・トランプ米大統領(当時)は、月探査計画を承認する宇宙政策指令第1号に署名しました。それを受けて、19年5月にアルテミス計画の詳細が発表されました。

当初は20年に「アルテミス1」で月の無人周回飛行、22年に「アルテミス2」で有人周回飛行を実施。24年に「アルテミス3」で、初の女性飛行士を含む有人月面着陸を行うというスケジュールでした。

現在は全体的に2年ほど計画が先送りになっていますが、急ピッチで遅れを取り戻そうとしています。宇宙開発の研究者からは「最近、少し急ぎすぎているのではないか」と懸念の声も上がっています。

アルテミス計画が前のめりになる理由の一つとして考えられるのは、近年の月探査における中国の台頭です。13年に月面着陸に成功すると、19年には世界で初めて月の裏側に着陸。20年には、中国初のサンプルリターンに成功しました。アメリカは月探査のフロンティアとして負けられないと、焦りがあるのかもしれません。

最新の予定では、直近に打ち上げるアルテミス1で無人状態での月飛行の安全性が確認されれば、24年にはアルテミス2、25年にはアルテミス3が実施されます。アルテミス3の前に民間宇宙開発企業によって月周回軌道上に小型宇宙ステーション「ゲートウェイ(Gateway)」を設置して、月面着陸に臨む宇宙飛行士らの拠点にする計画もあります。

アルテミス1で打ち上げられる新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」は、81年から11年まで135回打ち上げられて退役したスペースシャトルの後継機の位置付けです。宇宙飛行士と探査船などの装置を目的地へ運ぶ役割を果たします。直径8.4メートルの二段ロケットで、エンジンを5基に増加すると最大で130トンを積載することが可能です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、相互関税控え成長懸念高まる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story