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「ガイア理論」のラブロック博士が死去、いま振り返る成り立ちと意義
やがてラブロック博士はドーキンス博士らの主張を受け入れましたが、「何かが地球を居住可能に保っているのだ」という考えは変わりませんでした。そこで、1983年に大気海洋学者のアンドリュー・ワトソン博士とともに「デイジーワールド」というモデル惑星で、ガイア理論を説明しようとしました。
デイジーワールドは、黒いデイジー(ヒナギク)と白いデイジーしか存在しない世界です。黒いデイジーの花びらは黒く、光を吸収します。白いデイジーの花びらは白く、光を反射します。どちらの花も生育に適した気温は同じです。
地表に降り注ぐ太陽光が極めて少ないか極めて多い場合は、気温が低過ぎたり高過ぎたりするため、どちらの色のデイジーも生育できません。デイジーが生育可能な温度で光量が比較的少ない場合は、黒いデイジーが繁殖しやすくなります。黒い花びらが太陽光を吸収するので、惑星自体も太陽光による熱エネルギーが蓄積しやすくなり、気温は上がります。さらに光量が多くなると、白いデイジーも繁殖するようになります。白いデイジーは温度を下げる働きをします。
温度が上がると白いデイジーが増えて温度を下げ、温度が下がると黒いデイジーが増えて温度を上げる。白黒のデイジーの数が調節されることによって、光量が変化しても気温はあまり変化しません。つまり、デイジーの自然淘汰によって惑星全体の恒常性が保たれるのです。デイジーがない状態の世界では、気温は光量に応じて上下するだけなので、デイジーワールドの恒常性はデイジーが作り出していると言えます。
デイジーワールドは「特殊すぎる設定で、地球との類似点が少ない」などと批判されましたが、後にウサギとキツネなど他の種を導入して拡張することによって、恒常性が強化されることが分かりました。
新たな学問分野、SF作品のヒントに
今日は、ガイア理論自体が科学的な理論として取り扱われることはありませんが、環境科学には大きな影響を与えています。拡張型のデイジーワールドは、生物多様性の貴重さを論じる際の論拠とされました。ガイア理論そのものが拡張されて目的論的な部分が排除されると、それまでは別々に研究されていた地球を構成する水圏、大気圏、地圏、生物圏 、地球内部を包括的に取り扱う地球システム科学という学問が生まれました。
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