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農業を救うべきなのではなく、農業が日本を救う。「だから、ぼくは農家をスターにする」 という未来予測
未来予測(1)値段を超えた価値が重視される時代
人工知能やロボットの普及で生産性が向上し、モノやサービスの価格が低下し、モノがあふれる豊かな時代に向かっている。そうなると数ある類似商品からどれを選ぶかの判断基準が、値段だけではなくなり、より精神的な付加価値が求められるようになるとみられている。
「食べる通信」が宅配する生産物は、安さが価値ではない。読者は、生産者の思いや人生哲学、生産の苦労話といった付加価値に対しても、対価を支払っている。
こうした付加価値のおかげで、どんなカリスマシェフが調理するよりも、生産物がおいしく感じるのだという。
最新技術を使って徹底的に合理化、低価格化を進める回転寿司チェーンと、手間ひまかけて最高の食事を提供しようとする「すきやばし次郎」などの老舗寿司屋。この二極化があらゆる産業に広がっていくと言われている。農畜産物も例外ではないだろう。
未来予測(2)コミュニティが社会の核に
人工知能、ロボットの普及でモノ、サービスの低価格化が進み、貨幣の流通量が低下することで、貨幣経済がゆっくりと自然死の方向に進むという未来予測がある。その結果、税収入が下がることで、政府の機能も縮小せざるを得なくなる。国家に頼れなくなった人々にとってコミュニティが社会の核になっていく、という意見をよく耳にする。
都会を捨て地方に移住する若者が増えているのは、そうした未来に向けての1つの兆候なのかもしれない。
ただ僕は、Uターン、Iターンだけが、コミュニティ回帰の形ではないように感じていた。テクノロジーを活用した新しいコミュニティの形が出てくるのではないか。そう思ってきた。
「食べる通信」が形成する消費者と生産者の新たな関係性は、僕が探していた新しいコミュニティの形なのかもしれない。
これまでの地域活性化と言えば、移住者を増やすか、観光で訪れる交流人口を増やすか、という2点にばかり注目されてきた。高橋氏は「食べる通信」で新たな地域活性化を提案している。この本の中で次のように書いている。
「食べる通信」が提供するのは関係性そのものだ。移住人口でもない交流人口でもない。都市と地方が継続的にコミュニケーションを取りながら双方が行き来する「関係人口」をいかに増やしていくか。地方か都市かという選択から、地方も都市もという緩やかな関係性の構築を目指していきたい。
未来予測(3)日本は「心」を世界に輸出する
米国が主導してきた徹底した合理主義が、世界のあちらこちらで行き詰まり始めた。日本の文化や精神性に注目が集まっているのも、「心ない合理主義」に代わる価値観を世界が求めているからだと思う。日本の精神性に傾倒したスティーブ・ジョブズが作ったApple製品が世界で大ヒットしているのなら、日本の精神性を込めたモノ、サービスを世界に展開する日本企業が成功する時代になるのではないか。僕はそう考えてきた。
「食べる通信」が展開している生産者と消費者の関係性は、実は Consumer Supported Agriculture (CSA、消費者が支援する農業)と呼ばれ、早くから米国を中心に広がっている流通の一形態である。ただ米国のCSAは、安全な生産物の確保を目指したもので、生産者と消費者の関係は比較的ドライだという。一方で「食べる通信」の関係性は、よりウェットだ。
高橋氏は次のように書いている。
地縁ではなく、都市に暮らす消費者と地方に暮らす生産者が共通の価値観で交じり合い、結び合う、地図上にない新しいコミュニティをつくることができるのではないか、そう私は考えた。日本で展開させるCSAは食べ物を得ることだけではなく、むしろそれ以上に生産者とのつながりを大事にしたいのだから。この点で、我々のCSAはアメリカのCSAをより進化させた形だともいえる。
高橋氏たちは、この「心がこもった」CSAの世界展開にも取り組み始めた。株式会社KAKAXI (カカシ)を設立し、農地に置くデバイスの開発を進めている。このデバイスとスマートフォンを組み合わせ、生産者が生産現場の情報を手軽に正しく発信し消費者とコミュニケーションできるツールを、まずは米国に提供していく考えだ。デバイスを量産し販売価格を下げるには、一定規模の市場が必要だからだ。
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