コラム

ウイグル人の次は回民、習政権のムスリム虐殺は続く

2019年03月23日(土)15時10分

習政権以前に細々と行われた礼拝(10年、寧夏回族自治区銀川) REUTERS

<新疆ウイグル自治区は「宗教の中国化」先進地域? 毛沢東を救ったイスラムの民を襲うジェノサイド>

100万人ものウイグル人とカザフ人を再教育センターに強制収容した新疆ウイグル自治区は、今や中国で「先進地域」の地位を獲得したらしい。

全国人民代表大会(全人代)で3月5日、李克強(リー・コーチアン)首相が習近平(シー・チンピン)国家主席の「宗教の中国化」路線を強調。その翌日には、内陸部の寧夏回族自治区幹部が「先進地域」に倣えと発言した。

イスラム教の「中国化」の下、「テロリスト予備軍」ウイグル人を「善良な中国人民」に改造しつつあると評価され、晴れて「先進」の栄冠を手にしたのだ。

現地では聖典コーランの誦読(しょうどく)が禁止され、携帯電話からイスラム関連アプリの削除を義務化。オアシスのウイグル人村落に漢民族を送り込んで雑居を進め、漢民族の幹部たちはウイグル人の家々に「進駐」。豚肉食を強制し、母語による会話を禁止する。家族同士がウイグル語で会話すると、「漢民族の悪口を言い、祖国分裂をたくらんでいる」と疑われる。

強制収容所内のウイグル人たちも「再教育」後、順調に出所できるわけではない。彼らは数百~数千人単位で中国内地の陝西省や東北の黒竜江省などに強制移住させられている。

母語の禁止や強制移住といった民族・宗教集団の破壊は、ジェノサイド(集団虐殺)として国際法で禁じられている。その根拠となるジェノサイド条約は国連で48年に採択され、当時の中国政府も署名した。しかし、中国はこの条約をずっとほごにし、少数民族の生来の権利を保障しようとしなかった。

こうして新疆ウイグル自治区の「先進的」経験は今や、中国全土に拡大。最も熱心に導入し、学んでいるのは寧夏回族自治区だ。同自治区の人口700万人近くのうち約35%が回民という、イスラム教を信仰する民族で占められている。回民の「回」はイスラム教を指す古い表現「回教」に由来し、49年の中華人民共和国の建国後は回族と呼ばれるようになった彼らは、中国語を母語とするムスリムだ。

文革中に豚飼育を強制

古くは唐や宋の時代に貿易で来たアラブ商人と中国人の間の子孫との説もあるが、大半は13世紀の元朝に形成された、イスラム教に改宗したモンゴル軍、中央アジアから移住したペルシア人やトルコ人にさかのぼる。元が滅ぶとモンゴル人は草原に戻ったが、ムスリムは中国にとどまって緩やかに回民に変わっていった。

20世紀になり、回民は中国共産党の恩人となった。国民政府に追われ、毛沢東率いる紅軍(共産党軍)が1935年10月、長い逃亡の末に落ち着いたのが寧夏・甘粛・陝西の3省に囲まれた寒村、延安(現・陝西省)だった。

寧夏と甘粛にはマホメットの名に由来するイスラム系、馬(マ)一族率いる軍閥が割拠しており、37年に毛と対立する紅軍分派(西路軍)約2万人を壊滅。延安をのみ込もうとしていた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story