コラム

日米豪印のインド太平洋戦略が、中国の一帯一路より愛される理由

2018年03月05日(月)10時30分

一方、中国は歴史的に大陸国家だったが、モンゴル帝国の支配を脱した後は征西し、その遺産を略奪しようとした。15世紀にイスラム教徒の武将・鄭和に艦隊を引率させて西への航海を試みた。鄭和はイスラム・ネットワークを利用したものの、結局自身が接触できたのは中東にまで及んだ旧モンゴル帝国の関係者だけ。海上ルートの開拓は失敗した。

さらに中国は歴史的に、得意の大陸進出すら成功していない。漢字や儒教といった中華文明はいずれも万里の長城の西端、嘉峪関(かよくかん)から遠くへは伝わらなかった。マルコ・ポーロら西方世界の人々が好んだのは中国の絹や茶といった物資であって、その価値観ではない。

今日においても、一帯一路の魅力は中国政府が作ったアジアインフラ投資銀行(AIIB)の人民元であって、彼らが説く思想や政治理念ではない。

わざわざ安倍晋三首相が「価値観外交」と強調するまでもない。シーパワー同士の攻防において、「一帯一路」よりも自由で開かれた「インド太平洋戦略」のほうがはるかに世界の支持を集めることだろう。

<本誌2018年3月6日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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