日米豪印のインド太平洋戦略が、中国の一帯一路より愛される理由
中国の一帯一路構想に2つの大海がたちはだかる Fpdress/iStock.
<地政学を塗り替えるシーパワーの衝突。日本海をものみ込む中国の海洋進出の勝算は?>
中国から海と陸とでアフリカやヨーロッパまで延伸する巨大な政治的かつ経済的な「一帯一路」構想。それに対抗しようと、アメリカと日本、オーストラリア、インドが結束して、2つの大海を結び付けようと「インド太平洋戦略」を練り出した。
新たなシーパワー(海洋国家)同士の衝突が21世紀の地政学の勢力図を描き直そうとしている。中国には就役中の空母は1隻しかなくても、初歩的な海図の作成法を学びながら、「広大な太平洋には中国とアメリカの2国を受け入れる空間がある」と主張。また、南シナ海に複数の人工島を造営して軍事施設を建設。マラッカ海峡を押さえて太平洋とインド洋を行き来する艦船に対して軍事力を誇示しようとしている。
1月26日には「北極政策白書」を発表し、北極圏内での活動の権利と自由を主張しだした。北極航海路の開拓に伴って、中国海軍は自由に対馬海峡を抜けて北上。オホーツク海を通過して西・北太平洋への進出を図るだろう。日本の西に広がる海も名実ともに「日本海」と呼べなくなる恐れが高まる。
だが実際、中国の海洋進出はそんなにうまくいくのだろうか。まずは歴史を振り返ってみよう。
人類の近代はヨーロッパ人が大西洋を横断し始めた頃から幕開けした。その始まりは13世紀に東方から突如出現した遊牧民が生んだモンゴル帝国への冒険だった。コロンブスはマルコ・ポーロの『東方見聞録』を船長室に置き、「大ハン(君主)の国」までの航海を夢見ていた。
生物地理学者ジャレド・ダイアモンドが説くように、やがてヨーロッパはアフリカとアメリカという2つの世界を「発見」し、「銃・病原菌・鉄」を運び、奴隷貿易を行って、大西洋を「植民地の海」にしていった。
喜望峰を経由して船でインド洋に乱入した武装商人はアジアの香辛料をヨーロッパに持ち帰ると同時に、新世界の金銀とイギリスの羊毛製品などを運んで、海洋世界の貿易圏を形成した。その後、イギリスから独立したアメリカは内向きの国家経営と対外冒険を繰り返しながら、西海岸からハワイを併合。太平洋を勢力範囲に組み込んでいった。
アメリカが成功した一因は、漁師あるいは倭寇として海に関する豊かな知識を持っていた日本が、列島の東方にさほど関心を抱かなかったからだ。日本の目はもっぱら西に向き、防塁を築かなければならなかった。というのも、かのモンゴル帝国は2度も日本に襲い掛かってきたからだ。「外敵は西から来る」という認識が日本人の心の奥に定着したのかもしれない。
「外敵は西から」と認識
そうした恐れを抱きながらも、日本は20世紀前半に懸命に東進した。ハワイ沖でアメリカと戦火を交えた末に失敗して以降は、日本はアメリカの最も信頼できる同盟国になって今に至る。
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