コラム

中国の「虎の尾」を踏んだ、ムガベ大統領の哀れな末路

2017年12月09日(土)14時00分

ジンバブエ訪問で軍の歓迎を受ける中国の習近平国家主席(15年) Phillimon Bulawayo-REUTERS

<中国からの孔子平和賞辞退が老朋友(古くからの友人)の亀裂の序章だった――アフリカ版「反帝運動」と中華帝国の衝突が招いた政変の真実>

かつて「孔子平和賞」にも選ばれた国家元首が中国の謀略によって失脚に追い込まれた。

11月21日、アフリカ南部ジンバブエのムガベ大統領が辞任。80年の建国時から37年間にわたって国を支配したムガベは、欧米から「世界最悪の独裁者」と呼ばれた。だが中国にとっては愛すべき、古くからの友人「老朋友」。「人類の平和構築に大きく貢献した功績」から、15年に孔子平和賞の受賞者に選ばれた。

孔子平和賞は、人権活動家・劉暁波(リウ・シアオポー)へのノーベル平和賞授賞に反発した中国が「欧米の粗暴な内政干渉に反対し、真の平和理念を実現する」として10年に創設。ロシアのプーチン大統領など強権的な政治家に「独裁奨励賞」として授与されてきた。

ただ、当のムガベは喜ぶどころか、最も価値のない賞とばかりに一蹴。受賞を辞退し世界の注目を浴びた。それでもムガベが失脚した翌日、中国外務省の陸慷(ルー・カン)報道官は定例記者会見で「各方面が国家の長期的な利益を考え、対話を通じて平和的に解決するよう求める」と述べ、中国とジンバブエの友好は変わらないことを強調した。

今回の辞任劇は軍部のクーデターから始まるが、その軍の高官が直前に中国の首都・北京を訪問し、常万全(チャン・ワンチュアン)国防相と会談していた。折しも、中国がジンバブエで巨額の資金を投じて運営してきたダイヤモンド採掘企業が国有化される危険にさらされたことから、ムガベ排除に動いたのではないか、との報道も欧米から出ている。

中国からジンバブエへの投資は13年に5億2000万ドルに達し、アフリカ最大規模を誇る。両国の貿易総額が13億ドルを突破した15年12月には、中国の習近平国家主席がムガベを訪ねて古くからの両国の友情を温めた。

ムガベも14年春から人民元をジンバブエの法定通貨に加え、16年から正式に流通させる法案も議会を通った。孔子平和賞もこのような「人類への平和活動の実績」が認められて、授けられるはずのものだった。

革命思想輸出の果てに

注目に値するのは、アフリカや中東で社会主義運動を率いてきた「中国の老朋友」がいずれも悲惨な最期を遂げている事実だ。イラクのフセイン大統領が06年末に首都バグダッドで、アメリカの意向に沿って死刑に処せられたのは記憶に新しい。

エジプトのムバラク元大統領もおよそ30年間君臨してきたが11年に失脚し、6年間もの軟禁状態に置かれた。「大リビア・アラブ社会主義人民共和国」の「最高指導者兼革命指導者」カダフィ大佐も11年に動乱で敵対する武装勢力に殺害された。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story