コラム

党・軍・思想を握った習近平、権力の源泉は「がめつさ」にあり

2017年10月28日(土)14時00分

第3に、欧米の思想や哲学を極端に拒絶する政策を行っている。ソ連のように崩壊してはいけない――49年に誕生した中華人民共和国が70周年を迎えられるかどうか、習は神経をとがらせる。少なくとも在任中に国家解体を見たくないと懸命だ。

自分の娘はアメリカに留学させて一流の教育を受けさせる一方、国民には「西方の思想がわが国の教室を占拠してはいけない」と厳命。すかさず「マルクスだってドイツ人ではないか」と反論した知識人は即座に大学から追放された。

習が知識人に不人気なのはそれなりの理由がある。昨年9月に20カ国・地域(G20)首脳会議が杭州で開かれた際、習は「通商寛農(通商を進めて農民に寛容な政策を実施する)」という熟語を読み間違え、失笑を買った。農の中国語(簡体字)「农」が「衣」と似ており、「寛農」を「寛衣」と読んだからだ。寛衣とは服を脱いで性的な悦楽に入ることを示唆する表現だ。

そんな習にあきれる知識人と異なり、農村での支持は厚い。父祖が極貧地帯の農民だった習に、農民は自分たちを重ね合わせている。世界第2位の経済大国を誇っても、自分の名前すら書けない農民はまだ大勢いる。

習主導で進める経済構想「一帯一路」で通商は進んでも、国民が寛ぎ、自由を享受できる生活は実現されていない。「中華民族の偉大な復興」よりも、農民の識字率を上げるのが先だろう。だが北山狼にはその気がないようだ。

<本誌2017年10月31日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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