コラム

森喜朗女性蔑視発言は、なぜ沈静化しないのか──ジェンダー対立に留まらない5つの論点

2021年02月10日(水)18時43分

また、今回の発言の当事者ラグビー協会の理事は、「話が長い」とは自分のことではと推定している。

森喜朗氏の女性蔑視発言「私のこと?」 ラグビー協会初の女性理事が抱く五輪への懸念|毎日新聞


「読売新聞記者として女性問題を長く取材してきた。専門分野を深めるため、読売新聞の調査研究本部で主任研究員を務めていた2013年に日本ラグビー協会の理事に就任。その時の協会会長が森会長だった。」


プレー経験がなく、ラグビーは専門外だった稲沢さん。ラグビー協会の女性理事は今は5人に増えたが、当時の女性理事は1人。男性ばかりの理事会で積極的に質問や意見を述べてきた。

おそらく稲沢氏の意見は內部の論理の意に沿わない外部からの指摘が多かったのだろう。「わきまえない話」は「長い」のだ。

先のJOC評議会の挨拶ではないが、ラグビー協会にいた人によると、森会長の話が一番長く、自慢話ともつかない話が冒頭から延々と続くという。

義理人情現場主義 vs  理念・ルール遵守

また森会長は、義理人情に厚くお世話になった人も多いという話はよく聞く。立候補時には泡沫候補として公認を得られなかったのが、近所の火事でのとっさの行動でトップ当選を得たという。


選挙直前の一族会議中に、近隣の家から出火した。この時、森は決死の覚悟で家にとびこみ、仏壇を抱えて出て来たという。当時の北陸地方は仏教への信仰が篤い土地柄であったこともあり、この行動は風向きを変えることになった。 - 森喜朗 Wikipedia

かつて都内に所有していた自宅を手放し派閥所属議員を支援する資金を確保した等「面倒見の良さ」を示すエピソードは多い。

個人的な思い出だが、森内閣「IT戦略会議」に孫社長が諮問委員として参画していたときその社長室長の随行員として参加していた時期がある。年末に総理主催の慰労会として官邸の広間で開催されたが総理直々の指示として、「民間企業の錚々たる方々は普段から美味しいものを食べているから官邸食堂の食事では申し訳ないと特別に都内の一流ホテルにケータリングをお願いさせた」と嬉しそうに話されていた。

私にも、「美味しいでしょう」と満面の笑みで話しかけられ、これが森流のおもてなしかと感心した記憶がある。身内の直接手懐ける人には優しい。

今回の発言は山下会長によると、閉会を宣言して議事が終わった後だったという。正式な議事録としてルール上残る形ではなく、「面倒を見てきた」人に対して暗黙のメッセージとして伝わるように発言する。

ただ、オリンピックの様な政治と巨大利権が絡む利害調整は、綺麗事では行かないことも事実であり、義理人情浪花節での調整役を必要とするのも現実だ。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story