コラム

黙らされたトランプ大統領──表現の自由の線引きを決めるのは民主国家か、ビッグテックか、デジタルレーニンか

2021年01月18日(月)17時50分

これも言論?(米風刺番組が設置したニューヨークのトランプ・ツイート博物館に飾られたツイートの1つ。「オバマはアメリカ人じゃない」と言っている) Carlos Barria-REUTERS

<米議会襲撃事件でツイッターやフェイスブックが一斉にトランプを追放。民間企業でありながら、8800万人のフォロワーがいるトランプを一夜にして黙らせる力を持つことが明らかになった>

2020年1月6日にアメリカ合衆国議会(連邦議会)襲撃事件が発生すると、テックカンパニーの行動は速かった。

1月6日 スナップショットが、トランプ氏のアカウントを停止
1月7日 フェイスブックがトランプ氏のフェイスブックとインスタグラムアカウントの無期限停止を発表
1月7日  ツイッターは警告表示後、トランプ氏の個人アカウントを12時間停止
1月7日 グーグルは、多くのトランプ支持者が大手SNSの検閲を逃れて移行した「パーラー」をアプリストアから削除
1月8日 アップルがパーラーのアプリを削除
1月8日 ツイッターは、襲撃事件後のトランプ氏のツイートが「更なる暴力を扇動する危険性がある」としてアカウントを永久凍結
1月9日 アマゾンAMSがパーラーにクラウドサービスの停止を通達
1月11日 ツイッターが、陰謀論者Qアノン関連の投稿に使われていた7万件を超えるアカウントを永久凍結

今回、新たに明らかになったことは「ビッグテックが本気になれば、8,800万人がフォローしている自国の大統領だろうと、1,200万人のユーザーがいるパーラーだろうと、自分たちの『規約」にもとづき数日で世界から排除できる」ということだ。

ビッグテックは民間企業なので、その規約は当然、それぞれ自由に決めて運用して良いものだ。しかしその利用者が世界のほとんどの国と地域に存在し、利用者数が世界の大国並みの人口を超える存在となれば話は別だ。利用者が減少傾向のツイッターでさえ、世界の月間利用者は3億3千万人に達する。

メルケルの永久凍結「問題視」の真意

ツイッターによるアカウント永久凍結は「表現の自由」の観点からやりすぎではないか、という意見が日本でも散見されるようになる中で、1月11日あたりからドイツのアンゲラ・メルケル首相が、ツイッターによるアカウントの永久凍結を問題視しているという報道が流れる。

流れてくる報道の見出しだけをさらっと読むと、メルケル首相も言論の自由は大切だ、とトランプ大統領を擁護したように読めるが、丁寧に発言原文を読むと意味は全く違っている。


Rights like the freedom of speech "can be interfered with, but by law and within the framework defined by the legislature -- not according to a corporate decision." - Bloomberg

表現の自由の権利などは「干渉することもできるが、企業の判断ではなく、法と立法府によって定められた枠組みによるべき」

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story