コラム

【学術会議問題】海外の名門科学アカデミーはなぜ名門といえるのか

2020年12月08日(火)11時22分

12月4日の記者会見で、日本学術会議の任命拒否問題は「かなりの反発を招く」ことは予想していた、と語った菅首相 Hiro Komae/ REUTERS

<歴史ある欧州のアカデミーは、民間で独立しながら積極的に政治の要請にも答えているので政府も補助金を弾む。日本とは逆だ>

前回12/3(木)のコラムで、日本学術会議の本質的な問題の構造を分析してみた。今回はこの構造理解を踏まえて、どのような文脈で発生したのか、因果関係、それぞれの立場の「意味の場」、その底流に流れる「当事者の古層」等を踏まえて更に、本質に迫りたい。

I. 政府と学術会議の関係性の整理による検証

日本学術会議は、我が国の科学者の内外に対する代表機関で、内閣府の「特別の機関」にあたる。

そもそも日本学術会議法によると1949年に「科学が文化国家の基礎であるという確信」のもとに、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献」、「世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」として設立されたものだ。

但し、設置法の条文をみても政府との関係性が極めてあいまい。かつ、行政府の下の特別機関であり、海外のアカデミーのような立法府との接点はない。

10月上旬の報道番組でも、政治評論家の橋下徹氏と任命拒否された松宮孝明教授がやりあっていたが、松宮教授が設置法3条の


第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う。
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

を主張するのに対して、橋下氏は第4条


第四条 政府は、左の事項について、日本学術会議に諮問することができる。

をもってして、政府の諮問会議で<?>特別公務員であったとしても国民の付託を受けた政治家の行政裁量の範囲として、特定団体に偏った会員構成の変更修正する任命権を持ちうると反論していた。(但し、橋下氏もそれでも任命判断に対する説明責任は首相にあるとはしていた。)


第五条 日本学術会議は、左の事項について、政府に勧告することができる。

それぞれ、諮問することができ、かつ勧告することもできるが、双方に義務はない。極めて曖昧な位置づけに、国を代表する研究者のアカデミーが置かれていることになる。

事実、正式な政府からの諮問に対する勧告と呼べる答申は、2007.5.30の「地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築」に関する答申以来、10年以上ない。

提言・報告等【答申】|日本学術会議

政府の問いかけ以外の関係機関の審議依頼と回答も年に一度程度の発信。

提言・報告等【回答】|日本学術会議

「科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方」(2020)、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」(2019)も大事だが、年に一度この程度テーマでの回答が、日本を代表するアカデミーの政府機関としての成果だとすると心細い。国民の多くがその存在すら知らないはずだ

当初は、「学問の自由」を人事権をもって不用意に侵害してしまった菅内閣による論点外しだと、私自身思っていた。ただ、実際に、日本学術会議のホームページに掲載されている成果を論文含めて読んでみると、国を代表する科学アカデミーのあり方がこれで良いのか、しっかりとした議論が必要である様に感じた。

日本学術会議と海外のアカデミーの比較

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story