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黙らされたトランプ大統領──表現の自由の線引きを決めるのは民主国家か、ビッグテックか、デジタルレーニンか
メルケル首相は、言論の自由は守られるべきだとかいう優しい一般論を言っているのではない。ドイツは昨年6月、憎悪犯罪の増加に伴い、ネット上のヘイトスピーチを規制する法改正を政権下で行い違法コンテンツの速やかな削除をSNSに義務付けている。
真意は、「言論の自由の制限・介入は必要に応じされるべきだが、その判断は民間企業ではなく、国家の立法府が行うべきだ」という全く違うところにある。表現の自由に対する規制介入の権限は国家にあるべきだとビッグテックに対抗する全ての法治国家の権威と秩序を代表して発言しているのだ。
トランプを葬ったジャック・ドーシーの言い分
これら全ての流れの中で、1月13日にツイッターのジャック・ドーシーCEOが長い連投ツイートで本件について語った。
ITメディア「TwitterのドーシーCEO、トランプ氏のアカウント凍結について11連投ツイートで語る」の翻訳部分参照
「Twitterでアカウントを凍結することには重大な影響が伴う。アカウント凍結は、健全な会話を促進するためにならず、これはわれわれの失敗だと感じる。アカウント凍結は、公共の会話を分断し、われわれを分断する。説明や学びの可能性を制限することにもなる。個人や一営利企業が世界的な公共の会話に権力を持つ前例を作る危険性もある」
これは、1月11日のメルケル首相の「問題」発言に呼応したものだろう。
アカウント凍結に伴う危険性の認識と、その判断を個人(ジャック・ドーシー)や一営利企業(ツイッター)が行うという前例を作ってよいのか、当事者も当惑している、というところだろう。
「ユーザーがツイッターの利用規約に納得がいかなければ、他のサービスに移行すればいいだけの話だった」が、「多数のインターネット上のサービス提供者が(共謀したことではないはずだが)一斉にサービス提供を拒否したことで、状況は変わった」
一営利企業だから、規約でユーザーを排除選択できるが、ユーザーも別のサービスを選択することができる、という民間企業とユーザーの関係性を強調しつつ、実質的に、ビッグテックが本気になればどんな個人も企業も世界から排除できる事実を認めている。
ポイントは、" I do not believe this was coordinated. " 「共謀はなかったと信じている」とあえて強調しているところ。逆にビッグテックが「共謀して排除」することもありうると暗に認めている。
「われわれは、ポリシーと施行の矛盾を批判的に検討する必要がある。われわれのサービスがどのような害を引き起こすかを調べる必要がある。モデレート(投稿への規制介入)についての透明性をより高める必要がある」
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