コラム

黙らされたトランプ大統領──表現の自由の線引きを決めるのは民主国家か、ビッグテックか、デジタルレーニンか

2021年01月18日(月)17時50分

メルケル首相は、言論の自由は守られるべきだとかいう優しい一般論を言っているのではない。ドイツは昨年6月、憎悪犯罪の増加に伴い、ネット上のヘイトスピーチを規制する法改正を政権下で行い違法コンテンツの速やかな削除をSNSに義務付けている。

真意は、「言論の自由の制限・介入は必要に応じされるべきだが、その判断は民間企業ではなく、国家の立法府が行うべきだ」という全く違うところにある。表現の自由に対する規制介入の権限は国家にあるべきだとビッグテックに対抗する全ての法治国家の権威と秩序を代表して発言しているのだ。

トランプを葬ったジャック・ドーシーの言い分

これら全ての流れの中で、1月13日にツイッターのジャック・ドーシーCEOが長い連投ツイートで本件について語った。

ITメディア「TwitterのドーシーCEO、トランプ氏のアカウント凍結について11連投ツイートで語る」の翻訳部分参照

「Twitterでアカウントを凍結することには重大な影響が伴う。アカウント凍結は、健全な会話を促進するためにならず、これはわれわれの失敗だと感じる。アカウント凍結は、公共の会話を分断し、われわれを分断する。説明や学びの可能性を制限することにもなる。個人や一営利企業が世界的な公共の会話に権力を持つ前例を作る危険性もある」

これは、1月11日のメルケル首相の「問題」発言に呼応したものだろう。

アカウント凍結に伴う危険性の認識と、その判断を個人(ジャック・ドーシー)や一営利企業(ツイッター)が行うという前例を作ってよいのか、当事者も当惑している、というところだろう。

「ユーザーがツイッターの利用規約に納得がいかなければ、他のサービスに移行すればいいだけの話だった」が、「多数のインターネット上のサービス提供者が(共謀したことではないはずだが)一斉にサービス提供を拒否したことで、状況は変わった」

一営利企業だから、規約でユーザーを排除選択できるが、ユーザーも別のサービスを選択することができる、という民間企業とユーザーの関係性を強調しつつ、実質的に、ビッグテックが本気になればどんな個人も企業も世界から排除できる事実を認めている。

ポイントは、" I do not believe this was coordinated. " 「共謀はなかったと信じている」とあえて強調しているところ。逆にビッグテックが「共謀して排除」することもありうると暗に認めている。

「われわれは、ポリシーと施行の矛盾を批判的に検討する必要がある。われわれのサービスがどのような害を引き起こすかを調べる必要がある。モデレート(投稿への規制介入)についての透明性をより高める必要がある」

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国経済8月は減速、生産・消費が予想下回る 成長目

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ワールド

米中マドリード協議、2日目へ 貿易・TikTok議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story