コラム

森喜朗女性蔑視発言は、なぜ沈静化しないのか──ジェンダー対立に留まらない5つの論点

2021年02月10日(水)18時43分

また今回、女性差別問題に隠れてしまっているが、重要な問題点は、スポーツ庁の女性理事の割合を40%以上とする目標を掲げているガバナンスコードを軽視する冒頭の発言だ。


「発言の趣旨は、ガバナンスコードの数値にこだわる必要がないという部分だと受け止めました。それを仮に『守らなくてもいい』と本気で考えているのなら問題です」と危機感をあらわにする。

「多様性と包摂(Diversity and Inclusion)」の理念を謳う組織のトップが、理念・ルールについて「うるさい」と発言していることは、コンプライアンス上、大きな問題だ。

義理人情浪花節の実行力を重視するか、組織の理念を毀損する存在として容認しないか、で意見は分かれる。

当事者 vs 評論者

以上の4つの対立軸に加えて、オリンピックという世界的なイベントを、コロナ禍が継続する中、半年後に控えるという特殊な状況で当事者であるか、評論家であるか、という立場の違いは大きい。

たまたま私は、先程紹介した東京都顧問の仕事の一環で、IOCや国内外の競技団体、国や都、場合によっては近隣の都道府県、スポンサーなどとの開催準備作業の一端を観た。招致成功以来、5000人規模の寄り合い所帯が施設設営、ロジスティクス調整等、膨大な調整業務の作業を行っている。

コロナが収まっていないのに、オリンピックどころではない、2週間のスポーツイベント開催よりも国民の医療体制を守ること、安心・安全が優先だという国民感情は私にもある。

但し、当事者として準備にあたっている方々とオリンピックの主人公であるアスリートへの敬意(Respect)は必要だと思う。国のために闘っているのに、なぜ闘っていると非難されているような「ベトナム戦争のアメリカ兵の気持ち」と聞いたこともある。オリンピックは問題も課題も多いが多くの人が一度は待ち望んだ東京2020オリンピックではなかったか。

開催準備に既に相当なコストを投下し、開催に向け努力している人たちと参加に向けてトレーニングに励む世界中のアスリートがいる以上、最後まで開催に向けた努力を諦めるべきではないと思う。

そういう意味では森会長は、本当に命がけで「7年やってきた」のだと思うし、そのオリンピック開催に向けた当事者意識は尊敬に値すると思う。

ここが分水嶺と国民が直観

東京2020大会の基本コンセプト「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を組織トップそのものが重視していないことを露呈し、スポーツ庁の女性理事の割合を40%以上とする目標を掲げているガバナンスコードも軽視するよう会議体に圧力をかけたという深刻なものだ。

IOCも世論や選手、協賛社から非難の声が相次いだことを受けて、改めて「不適切だ」と立場を明確にしている。

森氏発言、IOCが声明「完全に不適切」|日本経済新聞

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story