コラム

世界で唯一国民のモラルだけで「戦争」を戦ってきた日本、ついに特措法改正、私権の制限、罰則規定に踏み込む政府

2020年12月29日(火)16時14分

自分で自分の身を守る日本人(東京の通勤客、5月27日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<「世界で最も「私権の制限」に慎重な日本」は変わるか>

安倍晋三首相は4月10日、「第3次世界大戦はおそらく核戦争になるであろうと考えていたが、コロナウイルス拡大こそ第3次世界大戦であると認識している」と田原総一朗氏に述べたと聞く。

「コロナ禍は第3次大戦」 安倍首相、田原総一朗氏に伝える

当時、ヨーロッパとニューヨークで感染爆発と医療崩壊が起き、ロックダウンに踏み切っていた。また日本でも緊急事態宣言が発令された。

但し、その宣言に罰則規定がない点については、「こういう時に罰則規定を設けないのが戦後日本の体制だ。それをやると圧政になる」と安倍総理は語ったと聞く。

日本政府の対応はこれまで場当たり的で後手後手で、哲学、戦略、ビジョンがないと言われてきた。但し、「私権の制限」には、野党の反対もあり極めて一貫して慎重だった。新型インフルエンザ等対策特別措置法第5条においても国民の自由と権利の制限は必要最小限のものでなければならないと定められている。

世界で繰り広げられる法的根拠に基づく隔離と行動制限と個人の戦い

元科学者でもあるドイツのメルケル首相は、「すべての人の命に救うべき価値がある」と訴え、このクリスマスも感情的な表現で国民にロックダウン生活の必要を訴えた。経済よりも国民の命を救うことを最優先する、という哲学だ。これまでは財政規律に厳しかったがそれも方針転換した。

一方、トランプ米大統領は新型コロナウイルスは「風邪のようなもの」といった発言を繰り返し、マスクの着用や経済活動の自粛には否定的な見解を繰り返し、経済を優先させる方針を貫いた。大量の感染者と死者を出した一方で、おそらくは自身の大統領選挙に間に合わせたかったことが最大の理由とはいえ、ワクチンの開発と承認を急がせ、異例とも言えるワープ・スピード作戦で1年での開発にこぎつけた。トランプ大統領の数少ないレガシーと言って良い。とにかく経済優先、コロナはワクチンで解決という一つの哲学だ。

中国は強権的に1000万人規模の強制大規模検査で無症状者を洗い出し隔離し、短期間でも抑え込みに成功した。但し、当局の判断は絶対で市民の行動は相当制限される。とにかく国家統制優先というのが哲学だ。

中国では、当局が感染周辺地域と指定した地域に赴いていただけで申告義務がありホテルに14日間隔離される。

シンガポールでは、ロックダウン期間が始まり、オフィスに仕事で必要なスマホを取りに帰っただけの駐在員が監視カメラで判明し国外退去になったり、子供と公園でバドミントンをしていた親子に罰金3万円が課されたりしたと友人から聞いた。

ドイツ人の友人は、日本人が全員が「罰金がないのに」マスクをしていることに驚いていた。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story