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最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性

山本彌生|アメリカ

2022年に向けて!なければ作る改善する。それがポートランド・スタイル

Mari 170216_SayHey.jpgパートナーズ・イン・ダイバーシティーのネットワーキング会。ここから、あたらしい出会いや協働プロジェクト、はたまた趣味の会への発展なども生まれてくる。著者山本の経験から言うと、参加者全員と話すことは当然無理なので『目星をつけて』自分の文化背景と近い人と話すことが多い。
ウォリー ヤマモトをさがせ」(2017年撮影)  Photo | joniphoto

| 自分の心地よさが誰かの良さになるために、って?

少しずつ、オレゴンにも多様性&包摂性というコンセプトがほんのうっすらと感じられるようになった2012年。ポートランドビジネス協会の一組織『パートナーズ・イン・ダイバーシティー』の理事長として迎え入れられます。ビジネス企業では得られなかった満足感を感じながらの入職です。

ここの目的・使命は、『アジア人を含む有色人種のビジネスパーソンを積極的に組織が採用し、雇用し続ける』ための支援です。

「実は、この様なビジネス支援プログラムを具体的に行っている組織は、米国で唯一無二なんです。主要なプロセスとしては、①雇用主から資金提供を受ける。②その資金でマイノリティー従業員のトレーニングする。③同時に雇用主も教育をする。④従業員には、当組織の各コミュニティー・プログラムに参加してもらい、安心できる居場所を提供する。」

プログラム内容や会は、ハイブリッドと遠隔両方の多彩なラインナップです。ディスカッション、リーダーシップ、CEOカンファレンス、オレゴン多様性サミット、リーダーシップ・トレーニング、朝会。加えて、毎月のネットワーキング会や全米からゲストを招いての特別サミットも。

社会の多様化が進む中、雇用主はより包摂的で公平な職場環境にする必要性が出てきています。ですから、職場文化に多様性、公平性、包摂性、帰属意識をスムーズに導入するためのツールが必須なのです。

従業員がより多様なこと。そこに健全な運営がされていれば、必ず組織は成功する。すでに研究リサーチでは、こう証明されています。 このような形で、多様性をビジネス社会に浸透させていけば、ポートランドは経済原動力を持つ米国有数の都市として成長・発展していけるのです。」

冷静な分析で有名なマリさん。その目から見るこの町の変化をお聞きすると、こう答えてくれました。

| ポートランドの課題は、米国の共通宿題項目なの?

「この2年間は、特にダウンタウン地域にとって非常に困難な時期でした。 ジョージ・フロイドさんの殺害を発端に、平和的な抗議活動から暴徒化へと発展。商品の略奪、窓ガラスの破損や放火だけでなく、騒動の影響で買い物客がダウンタウンを離れてしまうなど誰が想像していたでしょう。加えて、急激な勢いで人数が増加しているホームレス問題。その中には、薬物や精神的な問題を抱えた人たちも多くいます。」

実に短期間に、次から次へと多くのことが起こっていったこの町。その様子を連日、全国ネットのニュースで見るという信じがたい事実。心が不安定に揺さぶられたと多くの市民が話します。

それどころか、パンデミックの波がさらに覆いかぶさり、ダウンタウンのほぼ全てのビジネスが停止する事態に発展しました。予想以上に長い期間でコロナ禍が続いているため、今でもオフィスに戻りたがらない人が多いという現実があります。

このような、プチ・ゴーストタウン状態の地域。これはいつまで続くのでしょうか。

「多くの企業は、新年度1月から従業員をオフィスに復帰させようと計画をしていました。ですが新型株の不安から、それが3月になるのか4月になるのかまだわからない状況です。それに、自宅で働く環境に慣れてしまった多くの人々。いまさら、通勤出社するという従来型の勤務体制が、急に復活することとは思えません。

実は、これ以外にも大きな問題が発生しています。それは、雇用主が人を雇うのに非常に苦労をしていることです。そう、人材不足が発生しているのです。

現在、州内には何千もの求人があります。その枠を埋めるために、雇用主が給料を上げたり追加の福利厚生を付けたり。あの手この手を使っても、人が集まらないのです。人材不足の現場はビジネス業界だけではなく、エッセンシャルワーカー、教師、建築分野、レストラン業界等にも広がっています。」

では、その要因は何なのかと言うと、コロナで人生や仕事内容を見直した。感染に不安を抱えている。子供を預ける場所やお金がない。政府からの援助金をなし崩しながら、今は仕事をしたくない等と様々です。

Portland 公園方角羅針盤.jpgPhoto | iStock

この状態から抜け出すためには、町の環境の変化は必須です。そして、これはポートランドだけに限らず、多くのアメリカ国内の主要都市が抱えている問題にもなっています。

もちろんそれぞれの町の問題やケースは、異なっているので一概にこれが正解といえるものはありません。

ではマリさんが見る、現在の『5つの大きな問題と改善点』。それを『多様性、包括性、持続可能』という視点だと、どうなるのでしょうか。

① 住みやすさ

ほかの西海岸の町に比べて、不動産・物価は若干控えめのポートランド。コロナ禍や他州の物価・不動産上昇の影響で人口流入は続いています。そのあおりを受けて、ポートランド近郊もその上昇が止まりません。それに伴ってのひどい渋滞。税金の使い道を今一度考える必要がある。そういう市民が増え始めています。

また、下の⑤でも触れますが、リベラル派市民が多い事からか、ホームレスへの思いやりは、他の都市にくらべて高いのが特徴。とはいえ、働き住み、税金を払っている全ての市民のために行政は住みやすさを 維持しなければなりません。

同時に市民は、マイナスの発言や文句ばかりを吐き捨てるのではなく、市の行政トップによる明確なルール作りへの協働。そして、法律を執行する人たちへの理解とサポートが必要です。現在、官民共同の特別委員会によって具体案が話し合われています。

② 公共の安全

暴動中から現在にかけて、複雑な要因がいくつも絡み合っている現在のポートランド警察。何百人もの警官が不足している状況が続いています。市は警官を増員強化する必要がありますが、増員には1年半から2年間の期間を要します。このことで、商店での恐喝、強盗、拳銃を使った犯罪が以前に比べて急増しているのです。人員不足のために、現場に駆け付けたくても行けない。そんなジレンマを抱えている警官が多くいます。

同時に、ポートランドに住みたい、働きたいと思うマイノリティーの警官が増えるように、保守的な文化を改善する努力。その時期ともいえるでしょう。

③ 在宅勤務

コロナが今後どのような形になるにせよ、『ハイブリッド、在宅勤務、またはその組み合わせ』で働くスタイルは、今後も継続されるはずです。

このニュー・ノーマルな雇用形態から、雇用主は賃貸料を大幅に節約できるのは利点です。また企業方針によっては、ダウンタウンから完全撤退する企業もこれから増えていくと想像しています。これは米国内だけに限らず、今後の世界の主要都市の新しいオフィス・スタイルとなるでしょう。

ですからオフィス街の不動産会社は、新たな活路を必死に思案しているはずです。そしてその答えが、2022年以降の地域の活性化の鍵を握っていることは、安易に想像できます。

④ 保育

ハイブリッドでも在宅勤務でも、働く親にとっては大きな悩ましい問題です。 現在の人件費の高騰や人材不足から、手頃な価格の託児所を見つけることは、より一層難しくなっています。下手をすると、託児所やベビーシッターへの支払い時間給が自分の時給以上。こんなケースは、めずらしくないという現実。この様な堂々巡りによって、低賃金で働く親がなかなか職場や現場に戻れない。そんな要因の一つになっています。

働く人が皆、敷地内に託児所があるような大企業に働いているわけではありません。公共の保育園・託児所は皆無に等しい米国。働き続ける事と託児所問題の関係は、切っても切り離せません。地域行政が先導して、働き続けられるシステムを一刻も早く作り出すことが、このニュー・ノーマルの時代には必要不可欠です。

⑤ ホームレス支援と衛生

西海岸の都市としては、ホームレスの数を格段に減らしてきたポートランド。とはいえ、このコロナ禍で急激に増加傾向となって、町のいたるところにはテント村が存在します。

シェルターや施設の拡大。そしてそれに付随する支援等が必要です。また、想像以上に多いメンタルヘルスを抱えた人、親やパートナーのDVから逃げている人。その部分のサポートを見落とすと、ホームレス問題はループ化に陥ります

また、彼らが公道に捨てるゴミなども大きな問題となっています。市内清掃用の行政予算は、既に上半期に使い果たされました。よって、市民がボランティアとして清掃活動をしている状態が続きます。しかし、安全とは言えないゴミの種類や治安の点からも、市民活動ですべてが解決するとは言えないのが現状です。現在、元市長を中心に、官民共同の特別委員会によって具体案が話し合われています。

最後に...来る2022年からの働き方とは? 何をどう重要視すれば良いのでしょうか。
Mari talk at HeySay.jpegPhoto | Mari Watanabe

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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