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最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性

山本彌生|アメリカ

2022年に向けて!なければ作る改善する。それがポートランド・スタイル

ポートランドのダウンタウン地域にとって、非常に困難だったこの2年。 ジョージ・フロイドさんの殺害を発端に、平和的な抗議活動から暴徒化へと発展しました。でも一般市民の思考や文化、あたたかさに変わりはありません。以前よりもっと美しいポートランドの町にするために、今、官民公学が知恵を出し合って前進中。コラボの町は健在です。 Photo | iStock

| 自分の行動と社会が繋がっている、と意識して暮らしていますか?

ダウンタウンの一角に、緑と花々に縁どられたオフィスビルがあります。その中にひときわ明るいスペースを保持する、NPOポートランドビジネス協会。主要な企業の多くが所属する大きな組織です。

その協会内に、米国で唯一無二と言う特別部署があります。それが、パートナーズ・イン・ダイバーシティ。企業や組織が人種の多様性(ダイバーシティ)を高め、より包摂性に富んだ働く場所へと変えていく。その目的支援のため、ビジネス協会の一部として設立されました。

そこで理事長として働いているのが、日系3世のマリさん。女性が部長クラス以上で活躍するということがまだ珍しかった時代から、ずっと先駆者として第一線を歩み続けてきた方です。

さぞ、恵まれた才能や環境で働いてきたと思いきや、苦悩の連続だったとのこと。

とは言え、今では『改革』のリーダーとして実に数多くの協会役員をこなす日々。分析力の高さで有名なその目から見る『現在とこれからのポートランドの課題と改善点。日本人にとって、そこから学べること』とは、どのようなものなのでしょうか。

全米ネットワークのニュースメディアを騒がせていた、ここ一年間のポートランド。暴動、建物の破壊行為、そしてまだまだ多くの問題を抱えるダウンタウンとその周辺地域。加えてこのコロナ禍。数年前迄のポートランドブームとモデルは流され、まるで違う現在のこの町とシステムという現実があります。

これは、コロナ禍前から現在に掛けてのポートランドという町の話です。でも、これから読み進めていく時、きっと、あなたの地域や職場・組織に必要なヒントが多く読み取れるはずです。

マリさんと筆者山本の双方の働き。行政、組織、協会の務めとプライベートな情報を元に。本年度最後の、そして2022年に向けた特別レポートです。

| 少数派だからこそ声を発信していく、作ってみる

ワシントン大学で、マーチャンダイズを専攻したマリさん。それを生かして、ノードストローム方式という、顧客第一のマーケティングを生み出したことで有名な高級デパートに就職。それも、花形部署の製造技術部でした。寝る間を惜しんで努め、ついには部長にまで階段を上り続けて行きます。

そこをステップに、ナイキの営業部長として羨望の転職を果たします。当時としては、数少ない女性部長の一人でした。アパレル業界一筋に20年以上。世界中を旅して、さまざまな国で多くの文化と人々にふれ合いながら努め前進していきます。

世界的にも、一番就職をしたいと言われる憧れの有名企業。とはいえ、長い期間働いてみると、有色人種の女性は簡単には昇進できないことを徐々に肌で感じていきました。アメリカ生まれで英語が完璧にできて、マルチな能力があるにも関わらずです。

良き、一労働者としてしか見てもらえない。組織としてのリーダーとしては認識されない。そのことを身をもって体験していきます。

「有色人種の女性は、白人女性と同じ評価を得るために2倍以上の努力をしなければならないことを痛感し続けました。加えて、日本的なしきたりを重んじる日系人の価値観。そういう教育が身についている日系アメリカ人女性は、アメリカ企業のビジネス文化にうまく溶け込まないことが多いのです。

『謙虚さ』(極端にへりくだっているとみなされる)、『上司や年長者への敬意』(おべっかを使っている様に誤解される)、『波風を立てない』(自分の意見を持っていない、無能のレッテル付けをされやすい)などといった文化。これらがバリアーとなって、米国企業側が望む『有能なリーダー』になりにくいのです。」

だからと言って、日系人が大切に育んできた文化。それを組織の昇進のために捨てる、というのも何だかおかしな話。ですから、特に多くのマイノリティーと女性は葛藤を抱えてしまうと言います。

ではどの様に、その葛藤と闘っていったのでしょうか。

「少数派だとしても、その場その場で諦めないこと。泣き寝入りをしないこと。しっかりと自分の声を使い頭を使い、人前で発言をし続けていくことです。冷静に、感情的にならずに行動し続けてきました。

同時に、自分と同じ環境の人が多く所属するネットワークに参加をしていきました。自分の気持ちを第三者と分かち合うことは、精神衛生上とても大切ですから。日本の地方市町村と同じかもしれませんが、オレゴン州は人種的にあまり多様ではありません。ですから、自分が安心できるコミュニティー(居場所)を見つけるのは、そう簡単ではないのです。

もし、あなたが少数派だと感じて、居場所を探しても無い場合。そこに無ければ作り上げていくことが大切です。自分のために、そして他の似たような人のために。一人で出来なければ、色々な方法で有志を集って少しずつ作り出す。もし、作り方が分からなければ、試行錯誤で学んでいくことはできるはずです。」

| あなたのアイデンティティー、ってなんですか。

嫌と言うほど、多様性と包摂性について考え、試みる日々が続いたというマリさん。前進して行こうにも、見えないガラスの厚い壁や天井を痛感する毎日。もがき続けることが延々に続くように感じたと言います。

「辛くて苦しくて。心の葛藤に答えを出すために訪れたペルーのマチュピチュ。トレッキングをしていた時に、やはり現職を去るべき。そう決心をしました。なけなしの貯金を削りながら、身体と心を休ませよう。自分自身を見つめ直して、新しいキャリアを考えていこう。そう具体的に決めた途端、心がすっと軽くなったのを覚えています。」

自分自身を見つめ直していくプロセスによって、日系人のアイデンティティーを掘り下げる機会にもなっていきました。

そんな企業内での昇進と自分自身の成長の葛藤を経て、NPOオレゴン日系人記念博物館という分野への活路を見いだしていきます。完全なる異業種への転職でした。

米国内でもあまり全面的に打ち出されていない、第二次世界大戦中の日系人強制収容のつらい歴史があります。

「日系人家族は有刺鉄線内に閉じ込められ、人間としての尊厳を奪われた生活を強いられました。その様な人々の苦悩と苦労によって、今の自分の命がある。そこに恩返しの機会を得られたこと。それをとても誇りに思っています。」

この様な自分探しの経験を元に、数年後、ビジネスとNPOのコンビネーションともいえる米国で唯一無二の組織へと移動していくマリさん。

多様性にフォーカスする組織のプログラムとは? その視点から見る、5つの大きな課題と改善とはどのようなものなのでしょうか?

Mari Chinese garden speach Oregon Rise Against Hate.pngコロナ禍中、米国で起こった『アジアン・ヘイト』。互いの文化と多様性を尊重すること。その重要性を平和的に訴えるスピーチが、ポートランドでも行われました。 Photo | Mari Watanabe

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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