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ヴィズマーラ恵子|イタリア

G7文化サミット前にイタリア文化大臣更迭、メローニ首相の支持率が逆に上がった全貌

アンブロセッティ フォーラム、チェルノッビオ (CO)、2024年9月7日- 閣僚理事会議長ジョルジャ メローニ氏がEURO HOUSEで第50回アンブロセッティフォーラムで演説をした。イタリア政府閣僚評議会議長公式サイト・ライセンス CC-BY-NC-SA 3.0 IT

イタリア文化大臣ジェンナーロ・サンジュリアーノ氏の辞任決定により、2週間続いた公機密文書の漏洩と横領容疑の当惑は一旦終結したようだ。
メローニ政権にとって、辞任を余儀なくされた政府代表の選出は決して良いニュースではない。
それは首相と内閣閣僚大臣の信頼関係が壊れたということを意味し、何よりも国民との信頼関係が崩れたことを意味するからだ。
その結果の代償を払うのは国でありイタリア国民である。

サンジュリアーノ元文化大臣が関与した彼の軽率な行動による公私混同は、政府機関を継続的な細動にさらし、イタリアに深刻なダメージを与えた。
なぜなら、8日後には非常に重要なG7文化サミットがカンパーニャ州で開催されるからである。
2024年9月19日から21日までカンパーニャ州で開催される。
主催国イタリア他、6大国の政府の文化責任者も参加することが予想されている。
代表団は主に女性で構成され、カナダのパスカル・セントオンジュ文化大臣、イギリスのリサ・ナンディ文化大臣、ドイツのクラウディア・ロス文化大臣、 フランスのラシダ・ダティ氏と米国教育文化問題担当国務次官補リー・サッターフィールド氏、日本からは盛山正仁文部科学大臣も参加する予定である。

国際的な注目はむしろ、サンジュリアーノ氏自身とG7イベント組織のアドバイザーとして選んだ女性との間で起こった不倫騒動が話題となり、連日報道されていた。

2024年8月28日(火)、第81回ベネチア国際映画祭の開幕式には、サンジュリアーノ元文化大臣は、妻のフェデリカ・コルシーニさんと手を繋ぎ、笑顔でのうのうと出席していた。
9月7日、ベネチア国際映画祭閉幕式典はイタリアにとって最も重要な文化行事の一つであるが、サンジュリアーノ元大臣は欠席した。

メローニ首相は当初、元大臣サンジュリアーノ氏を擁護しようとしていた。しかし、同大臣の更迭は避けられないと思われ、早々にテレビに出演して説明し、この問題を明確に明らかにしようとせざるを得なかった。
実際には、メローニ首相が公の場で屈辱を与えられることとなった、後の祭りであった。

元文化大臣サンジュリアーノ氏は、テレビ番組Tg1のインタビューに応じ、「私が恥をかかせたことについてジョルジア・メローニ首相と政府に謝罪する」と涙ながらに述べ、ボッチャ氏との不倫関係を認めて謝罪した。

なお、イタリア国営公共放送RAIのメインチャンネルTg1にだけ、元文化大臣サンジュリアーノ氏は独占インタビューの特番を組ませて放送しているので、他の放送局から一斉に、公平ではない、独占禁止法違反だと抗議が殺到した。
サンジュリアーノ氏がTg1にだけ出演したのも当然だ。なぜなら、サンジュリアーノ氏は、Tg1の姉妹番組Tg2(ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ、アジア、オーストラリア、イタリアライ2で1日を通して数回放送される)の元局長だからであろう。

サンジュリアーノ氏は、文化大臣を辞職した後は、また国営公共放送RAIに再び戻る予定だという。

2018年からニュース専門放送局TG2のディレクター。ナポリで生まれ、法律部卒。1996年から2001年までナポリのローマ新聞の局長を務め、ヴィットリオ ・フェルトリの指揮下でリーベロの副局長を務めたエッセイストでもある。ウラジーミル・プーチンやドナルド・トランプの伝記を含め、ヴィットリオ ・フェルトリと共にさまざまな伝記を書き出版している。書籍「第四帝国 - ドイツがヨーロッパを征服した方法」。
ジャーナリストとしてのキャリアの中で、イル・フォーリオやイル・ジョルナーレなど、他のいくつかの新聞にも寄稿。若い頃は、極右のイタリア社会運動 (MSI) 運動の青年組織であるユース フロントの一員であった。1983年から1987年まではイタリア右派の国民社会運動のナポリ・ソッカーヴォ地区の地区評議員を務めた。2001年の総選挙では、シルヴィオ・ベルルスコーニが率いるイタリアの中道右派連合ラ・カーザ ・デッレ ・リベルタ( CdL ) より出馬したが落選している。
2003年、TG2の特派員としてイタリア放送協会Raiに入社しTG2の局長に就任、2009年TG1の副局長に任命された。


| 公務機密漏洩、横領、事態はもっと深刻

文化省内でのマリア・ロザリア・ボッチャ氏の役割と、彼女が主要なイベントのアドバイザーとして任命することを決定した経緯に関する詳細が徐々に明らかになった。

ボッチャ氏がG7文化などの戦略的サミットの組織に参加し、何より、彼女がそこにいることに何の役割もなかったという実態、さらに、女性に政府関係者、その他メンバーとの会話を聞くことを許可したということが、深刻な状況であることは確かであった。

また、ボッチャ氏への待遇については、政府公用車を使用して旅行したことや政府関係者以外の外部者の旅行を計画するために事務局を使用したことなど、私的利用を示す公的生活の要素も明るみとなり、ローマ検察当局が捜査を開始した。

この捜査は、野党「緑の党」のアンジェロ・ボネッリ党首が、先週、公務機密漏洩罪と横領罪の容疑での告訴状提出を受けて捜査は開始され、その日の午前中には元文化大臣サンジュリアーノ氏は検察庁から書類送検された。

同時に、ラツィオ州会計検査院も国庫への損害に関する調査を開始した。
犯罪を争う前に、元文化大臣の行為によって生じたであろう財政的損害を定量化する必要があるのだ。

公務機密漏洩については、元文化大臣は、「彼女が会話を録音していることに気づき、関係を絶った」と、彼女と不倫関係にあったこともテレビ番組Tg1のインタビューに認めた後、「脅迫を受けた」と、自身で認めた。
他人から不適切な状況や秘密を暴露するぞと脅されるリスクだけを意味する一般的にいう「脅迫」を意味しているが、公的な役割を担う者にとって「脅迫」とは、もっと重大な意味合いを持つ。
すでに起こってしまったことを、「今となっては遅すぎる」という人たちもいたが、問題はそこではない。
これから起こり得ることだけでも、まさに政府にとって、ひいてはイタリアにとって、この危険な状況を断ち切らなければならない。
大臣がやるべきことはただ一つ、それは大臣に辞任してもらうということだった。

9月4日、サンジュリアーノ文化大臣が辞表を提出した。
しかし、メローニ首相が受理を拒否した。

2日後、ジョルジア・メローニ首相、文化大臣ジェンナーロ・サンジュリアーノの辞任表明を受け入れ解任した。自身のSNSで「有能な人で誠実な人。国境の外であっても、イタリアの偉大な文化遺産を再起動し重要な成果に値し、評価できます」とコメントしている。

サンジュリアーノ元大臣は、文化省を去るときの様子をサンジュリアーノ氏が X に投稿、省庁職員らが拍手を持って送別している。

筆者が個人的にサンジュリアーノ元文化大臣の功績として評価していることは、イタリア、エコ抗議活動禁止法だ。
文化資産や景観資産を汚損したり記念碑を損壊した者に対し、最長で懲役5年の制裁を導入する政令変更法案を賛成138票で承認した。
これはサンジュリアーノ文化大臣が打ち出した法案だった。国が損害賠償責任の負うのではなく、エコテロリストが弁償しろというものだ。
これまで、偉大な先人達の遺してくれた素晴らしい文化遺産に対して、エコテロリストらが行う汚損・破損行為という侮辱と冒涜への行政処罰は甘すぎたので、何度でも同じ活動家メンバーが同じ行為を繰り返していた。
過料を重くする変更法案は画期的だ。

なお、この法案が通った後、イタリアでのエコ抗議活動家らの標的は一般企業になった。

その後、マリア・ロザリア・ボッチャ氏は、イベント計画に関する機密会議に参加したと述べ、大臣と他の政府関係者との会話を聞いており、録音していたと認めた。
ここ数日も、彼女は自身が録音・録画し、所有しているビデオ、音声、文書をインスタグラムに投稿公開していた。
それが増え続け、その他の資料も公開されることも予測されている。
サンジュリアーノ元文化大臣は、マリア・ロザリア・ボッチャ氏に対し、刑事告発をした。
告訴状の提示後、ボッチャ氏に対する捜査が開始された。

| メローニ下ろしと陰謀論、支持率は逆に上がった

イタリアが常に文化の発祥地と考えられてきた。国際舞台における主要なイベントの1つであるG7文化サミットは8日後にイタリアで始まる。 その前に、サンジュリアーノ氏が平和的に対処できたとは良かった。

結局のところ、これこそがメローニ首相が選択した方針、つまり少なくとも刑事関連またはその他の恥ずかしい事実が明らかになるまでは防御するという方針に逸脱を与えたものであった。

メローニ政権にとって、大臣更迭・交代で起こったことは、将来への警告となるに違いない。

閣僚不祥事が起こると、直接、首相の任命責任が問われる。
閣僚らを更迭するたびに「任命責任は私にある」と言い、任命した責任を重く受け止めるとした上で信頼回復に全力で取り組む考えを繰り返し述べるに止まっているのが日本だが、メローニ首相はそうではない。彼女が違う点は、任命責任を感じたり、国民に向かって謝罪することを一切しない。逆に、ピンチをチャンスに変えたところであろうか。

チェルノッビオ・フォーラムに出席した際、メローニ首相は、辞任した文化大臣サンジュリアーノの功績に感謝し、「政府は弱体化していない。昨日マスコミが辞任を待っている間に、私はすでにクイリナーレ(イタリア共和国大統領官邸)に来て新文化大臣を任命していました」と語った。こういった素早い対応と政権が弱体化するどころか、再強化をしたので更に良くなった政権であると、あえて国際フォーラムの場で、インタビューに答えてアピールした。

組織を困難に陥れるような状況が生じたとき、メローニ首相は断固としてその状況に立ち向かい、信頼性の問題を引き起こす可能性のあるものをすべて排除する勇気を持たなければならない。

イタリアは、国際舞台と国内の両方で対処すべき問題に関して、特にデリケートな歴史的瞬間に陥っている。

現在進行中の2つの紛争と、最大限の努力を払って管理しなければならない経済状況があり、イタリア国民は具体的な答えを待っているところである。
これがイタリア在住者たちが焦点を当てなければならないことである。

「メローニ首相下ろし」は、ここ最近、イタリアの政治論争でますます頻繁に広まっている。彼女の任命した大臣にかけるハニートラップ、彼女の家族(実姉アリアンナ・メローニ)へかけられた陰謀倫には、メローニ首相は偏執的なスタイルを貫いている。そして、9月11日、メローニ首相は情報漏洩を避けるためにキージ宮殿の1階に配備されていた4人の警察官を排除した。

この行為に、野党は即座に反発し批判をしている。首相が陰謀に執着していると非難するのは野党である。この状況は後に首相によって否定された。

"元文化大臣のG7機密文書の漏洩疑惑や不倫による公私混同公金横領疑惑などは、たいした問題ではなく、実は、政治家、枢機卿、スポーツ界、芸能界の著名人の何千もの個人データを財務次官が盗んだという非常に重大なスキャンダルの事実があることをメローニ首相は揉み消そうとしている"という説の「陰謀論」まで出てきた。

それは、元大臣(62歳)と不倫関係になった謎のポンペイの金髪美女ボッチャ氏(41歳)が、テレビでインタビューで、「メローニ首相の支持者である。彼女に投票した」と言ったことで、更に「陰謀論」は広まった。

"もっと重大な問題があるに違いない、その事実から国民の目をそらすために、サンジュリアーノ元文化大臣が身代わりになり辞任した。実は与党である中道右派政権が準備した女性で、メディアを利用して問題を隠蔽した自作自演だ"という説が、まことしやかに広がりを見せている。

反対者、批評家、抗議者は必然的に民主主義の敵でなければならないという、要するに、偏執的なスタイルがイタリア政治に蔓延しているようだ。しかし、陰謀ではなく、それが本当にがあった場合はどうなるのだろうか?イタリア人は、大衆の注意をそらすための武器としても、特に興味を持っていないようだ。実際、これらすべての出来事は世論調査を見ればわかる。

サンジュリアーノ氏の更迭にもかかわらず、その後の9月9日の最新政治世論調査では、メローニ首相率いる「イタリアの同胞(FDI)」政党は42%とリードし、+0,33%支持率が上がったと発表された。イタリア人が陰謀論を信じていないことを数字が表していた。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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