イタリア事情斜め読み
欧州で最も超高齢化社会の国イタリア、なぜ?
イタリアの高齢化加速が止まらない
国際比較統計・国別ランキングを掲載している調査サイトGLOBAL NOTEで、2022年の世界の高齢化率(高齢者人口比率)ランキングによると、1位はモナコの35.92%、2位は日本の29.92%、3位はイタリアの24.05%となっている。
WHO(世界保健機構)と国連が定めた高齢化の定義によると、65歳以上の人口が、全人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれる。
総務省が2023年9月18日の敬老の日に、65歳以上の高齢者の最新人口推計を公表した際、高齢比率は過去最高の29.1%であった。
日本は「超高齢社会」で、先進国では最も高齢化が進んでいる国である。
国立社会保障・人口問題研究所によると、高齢化率は2024年に30.1%となる予測で、29.1%から30%台へ上昇するという。
2025年には、団塊の世代が全て75歳となる。その割合は全人口の約18%、2040年には65歳以上の人口が、全人口の約35%へさらに上昇すると推計されている。
先進国で、日本の次に「超高齢社会」であるのが、イタリアである。
欧州連合統計局(Eurostat)の最新データによると、イタリアは欧州連合で最も高齢化が進んでいる国であり、人口の半数が平均年齢48歳以上だ。
イタリアはポルトガルと並んで65歳以上の居住者の割合が最も高く、24%、つまり約4人に1人が65歳以上の高齢者。
この増加はヨーロッパ全体の平均年齢44.5歳で、現在、高齢者の人数は欧州連合の人口の5分の1以上を占めている。
イタリアの人口の高齢化傾向について、モリーゼ大学の人口統計・社会統計学のセシリア・トマッシーニ教授は、ユーロニュースに 「注目すべきことは、80歳以上の人の割合は総人口の7.7%に上昇し、1991年に記録された3.3%から顕著に増加したことだ。」と、語った。
イタリアの総人口は1991年以来、3.4%増加したが、80歳以上の人口は2倍以上増加している。
経済学者らが懸念
出生数の減少と平均寿命の延長により、イタリアの人口は大幅に高齢化しており、経済学者はこの国の将来について懸念している。
イタリアの高齢化問題は、年金受給者の増加は新生児の数を上回っている。
そして出生率を高めるためのメローニ政権の努力は、今のところ人口減少傾向を逆転させるには至っていない。
イタリアは若い世帯を経済的に支援するためにもっと取り組むべきだが、国際的な監視下にある巨額の公的債務(2023年9月時点でGDP全体の140.6%)を抱えており、新たに家族向けの支援政策でさらに借金を重ねるわけにはいかない状況である。
| イタリアの人口高齢化の理由
高齢化による死亡者数が出生数をはるかに上回っているから。
ミラノ・カトリック大学の人口統計と社会統計の教授、アレッサンドロ・ロジーナ氏は、過去40年間にわたり、イタリアの一家族当たりの子供の平均数は1.5人未満であったと語った。
最新のデータでは、イタリアの女性一人が一生の間に産む子どもの数(合計特殊出生率)の平均は1.24未満。
出生率の低下は時折変動はあったものの、1980年代から始まったという。
人口を安定に保つためには、合計特殊出生率を2にすることが必要である。
国立健康老化科学研究所のジョバンニ・ラムーラ氏は、「イタリアの高齢化傾向は、高齢者が長生きすることが問題なのではない、人々の長寿は、どの国の政府の政治的課題でもあるべきだ」と述べている。
また、ラムール氏は、「問題はイタリアの出生率が低く、子供の数がどんどん減っていることだ。」と付け加え、高齢者が長生きしているという事実は、実際には明るいニュースであり、イタリアは、有利な政策、手厚い年金、お金のない人でも治療を受けられる無料の医療制度のおかげで、人々は長生きできていると主張している。
| イタリアの人口統計データにおける移民の比重
移民の流れは高齢化傾向をくい止める?
モリーゼ大学の人口統計・社会統計学のセシリア・トマッシーニ教授は、「イタリアにおける移民の流れは、この高齢化のプロセスをほんのわずかに遅らせた。移民の流れがなかった場合は、その影響はさらに顕著になっていただろう。」と言う。
一時的にマイナスの収支はプラスの移住率の増加によって相殺されたが、もはやそうではない。結果、イタリアの人口減少はさらに顕著になっているとのことだ。
移民危機は長年の問題で、政治的には難しい争点となり、非合法移民が急増したことが、大きな政治問題に発展する。
移民政策をめぐっては、与野党で対立し、連立政権が分裂崩壊しやすいかもしれないが、短期的には移民は人口動態に影響を与える可能性のある重要な変数になるかもしれない。
| イタリアは若い世代への投資が少ない
ローマ教皇フランシスコとメローニ首相は、昨年すでに人口減少について話し合っていた。
また、イタリアの未来について、テスラとスペースXの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、「出生数が減少し続ければ、イタリアは人口がなくなるだろう」と語った。
イタリアは第一子をもうける平均年齢が、ヨーロッパの中でも最も高い国の一つである。
特に、若者が社会に出て安定した雇用を見つけるのに苦労しており、マイホームを持つことも難しいため、イタリアの若いカップルは子供をつくることに慎重なのだ。
子どもを持つ人々は、若い親とその子どもたちに対する経済的支援や適切なインフラが不足している国で、家族と仕事を両立させるという課題に直面しなければならない。
ミラノ・カトリック大学の人口統計と社会統計の教授ロジーナ氏は、「イタリアでは、子供の誕生は親の経済状況の悪化を意味するだけでなく、組織的な観点から見ると他の国よりも生活が複雑になるリスクがある」と述べている。
若い家族を支援する国の限定的な政策は、"家族を持つことは地域社会に何の価値ももたらさず、支援する価値もない"というネガティブなイメージを植え付けている、逆効果になってはいないだろうか。
死亡率が上がる危機や新たなベビーブームが起こるなどの重大な転換期が訪れない限り、イタリアの人口高齢化と出生数の減少は今後も続くことになるだろう。
メローニ政権は出生率の向上を優先課題の一つに掲げているが、これまでのところ具体的な成果は得られていない。イタリアにとっての最大の懸念は、すでに弱い経済成長が今後も低下し続け、最終的に年金や福祉制度を賄えなくなることだ。
ディストピア的な未来ではなく、イタリアが欧州の最良の政策の例に従わない場合は、国の発展と社会の持続可能性は今後数十年間で危険にさらされるだろう。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie