イタリア事情斜め読み
イタリア白トリュフビジネスの闇、トリュフ犬38匹が毒殺の犠牲に
白トリュフの最高級品の産地として有名なのが、イタリア・ピエモンテ州のアルバであるが、 毎年秋に白トリュフ国際見本市が開催され、そのイベント内に国立トリュフ研究センターは毎年、最高の「トリフォール」をいくつか選び、慈善オークションに掛ける。
世界中からトリュフバイヤーが集まり、アルバワインとトリュフ騎士団の中から伝統に従って選ばれた200人のゲストだけがオークションに参加できるようになっている。
オークションは、シンガポール、ウィーン、ソウル、ドーハ、香港など、ストリーミングで全世界と繋いで行われる。
昨年のイタリア白トリュフのオークションでは、700gあたり18万4000ユーロ(約2,927万円)で、香港人バイヤーが落札し、22年間で一度も達成されたことない最高額が記録された。
オークション全体としては600万ユーロ(約9億5,400万円)の収益があり、その内の60万ユーロ(約9,540万円)分が世界中の慈善プロジェクトに資金提供されることとなった。
白トリュフ1グラムあたりの価格は、約41,825円である。
昨今、金相場が上昇しているというが、24金の1グラム相場で10,495円(本日12月5日(火)の金相場レートより)であるので、単純にトリュフは金の約3.9倍の価値で売買されていることになろうか。
『雄弁は銀、沈黙は金』ではないが、「金塊(きんかい)」よりも「菌根(きんこん)」の方が、価値があるようである。
世界三大珍味の一つ、森の宝石とも言われる高級食材の「トリュフ」、黒トリュフの10倍の価格と言われている幻の白トリュフを掘り当て、一攫千金狙いのハンターが急増しているワケはそこにある。
イタリアのトリュフハンターは、「トリュフの豊作を得るには、かつてのような穏やかで普通の気候が必要である。夏は暑過ぎず、乾燥し過ぎず、秋は雨が降り過ぎない、また、雨が降らなさ過ぎる干ばつであってもならない」と、説明している。
トリュフ価格の高騰の原因は、ここ近年に繰り返されるイタリアの記録的な猛暑と干ばつで、良質なトリュフが減ったため、価格が急騰しているのである。
| 食材のタイヤモンドと呼ばれる白トリュフとは
どのようにして誕生するのか?どれくらいかかるのか?
トリュフは、特定の植物ギルドが必要で、ブナ科(オーク)やヤナギ科(ポプラ)やカバノキ科(ヘーゼルナッツ)などの樹木の根に、菌糸を共生せさせて菌根を作る地下生根菌で、谷間や湿地で育つ。
ベーゼルナッツ(カバノキ科セイヨウハシバミ属)の樹木は、白トリュフが生まれる植物の1つであるが、土壌が新鮮で砂質なところ、特に深いところで採れるものは、芳醇な香りが際立ち希少な白トリュフが見つかる。
森の中の適度な湿気は必要で、日陰すぎない場所で土壌を新鮮に保ち、雑草や小さな枝の剪定をこまめにして、急勾配側を上手に管理することができれば、白トリュフの栽培は可能だという。
雨が降るとトリュフのカビが土の中で息吹き始め、土壌中に散布された胞子が発芽して菌糸が伸びていく。
神経繊維のような形をしていて、細い紐のように見える。それら菌糸が交配して集まり、1つの超個体を形成し、樹木の根に侵入して菌根を作る。トリュフは菌根を介して、樹木の光合成を吸収しながら育っていく。
代わりにトリュフは土壌中で水分を吸収し、土壌を構成する湿度とミネラル養分を樹木へ供給する、いわば有機栄養素の交換をしながら「菌根共生関係」で生きているのがトリュフである。
樹木と融合すると、それらはミセリウムと呼ばれる菌類の網を形成する。
干ばつで林床が乾燥する場合や気温が高過ぎると、これらの真菌は死んでしまう。雨が降ればまたトリュフ菌は生き返る。光合成のプロセスは非常に重要だ。毎日、トリュフは完全に熟するまで成長し続ける。
その成長途中に、強い香りを放つ。
トリュフ犬は特殊な訓練を受け、その香りを嗅ぐことができる。
豚もトリュフの香りを嗅ぎ分ける能力があるが、見つけ次第、豚はトリュフを食べてしまうので、トリュフを嗅ぎつけ、傷つけることなくて見つけ出し、見つけても食べないように訓練された犬の方がとても賢く優秀であり、人間に従順であるので、効率的にトリュフを探して収集するには犬を狩に同行させる。
トリュフ犬にむいている一部の犬種がある。
特に、ラゴット ロマニョーロ。 イタリア原産のこの犬種は、トリュフ狩りのために特別に選ばれた犬種である。
その他、ポインター、ビーグル、コッカースパニエル、ミシュリンゲ(雑種犬)も優れた臭覚を持っており、身体的、行動的特徴が備わっている犬も選ばれる。
トリュフ犬の訓練コースの価格は、品種、年齢、習得したスキル、受けた訓練によって大きく異なる。
1、子犬のころからトレーニングする場合
500ユーロ(約7万9,000円)から2,000ユーロ(約31万7,000円)。時間、忍耐、しつけと育成の責任も伴う。トリュフ犬の育成には平均で3年はかかる。
2、飼い主がトレーニング技術を学び、自分の犬を個人的にトレーニングする場合
500ユーロ(約7万9,000円)から2,000ユーロ(約31万7,000円)の範囲で異なる。犬と毎日練習するのに時間と労力を費やす必要がある。
3、 訓練済みのトリュフ犬を購入する場合
トリュフ探索のスキルや経験に応じて、3,000ユーロ(約47万6,000円)から10,000ユーロ(約158万円)以上まで様々。
専門技術を取得している優秀かつ信頼できる犬なので即戦力になり、一緒にトリュフ探しを始めることができるため、有益な投資となる。
栄養と運動の健康管理、獣医検査、手入れ衛生管理、トレーニングとスキル維持、人間と動物との社交性を培うために費やされた時間と費用をかけた貴重で特殊なトリュフ犬を毒殺されてしまう事件がたびたび起きている。
トリュフハンターの世界では、しばしば内部抗争が存在している
イタリアでは、白トリュフ解禁日は毎年9月21日から11月31日のみと決められており、その収穫の短い期間内に、収穫地を巡った競争は激化し、他者を排除するための縄張り争いが起こっている。その結果、破壊的で危険な手段をとる違法で野蛮な行為が、同地域で数年おきに報告されていた。
また今年、野生と家畜の両方の数百匹の動物の死を引き起こした。
2023年11月18日、モリーゼ州イゼルニア県サン・ピエトロ・アヴェッラーナで、38頭のトリュフ犬が残酷に毒殺された悲劇的な出来事が起こった。
ピアナ・ディ・サングロ地区とカンタルーポの森の間の広大な森林地帯で、トリュフ犬が毒を盛られた肉片を食べてしまい、この日だけで少なくとも20匹の犬が死亡した。
この地域は、特に美味しくて高価な森の宝石が眠っており、トリュフハンターの間では奪い合いの激戦地である。
アルト・モリーゼのニュースによると、「数十万ユーロに上る資金はほぼすべてが違法であり、森の中で不正行為は、さらに卑怯な犯罪行為を駆り立てるまでにエスカレートしている。施行されている規制を無視して、収穫が禁止されている夜間に、複数頭の犬を使って行動する者達は、おそらく地域外、特に隣のアブルッツォ州からやって来る "よそ者" トリュフハンターであり、地元トリュフハンターとの間で確執が起こった。」という。
それは、歯止めの効かない早い者勝ち争奪戦争で、アルト・モリーゼの森や領地は荒らされ、罪のないトリュフ犬が犠牲になった。
そして、考慮すべき抗争の巻き添え被害者もいる。
それは、野生動物であるオオカミやキツネやイノシシだ。
少なくとも現時点では死骸が発見されていないとしても、毒入りミートボールを摂取することができた雑食性のその他小動物も含まれる。兎にも角にも、動物の大量虐殺だ。
全国イタリアトリュフハンター協会の会長リッカルド・ゲルマーニ氏により、トリュフ犬の毒殺事件は38件に上ったと報告された。
また、フランチェスコ・ロロブリジーダ農務大臣に宛てた書簡で、同氏は「トリュフ狩りがビジネスではなく持続可能で倫理的な行為であり続けることを保証するために政府が介入していただきたい」と求めたことが報じられた。
モンテロドゥーニ森林局の国家警察は、住民から毒餌の存在を通報されたため、マッキア・ディゼルニア市の周辺地域に介入した。
森林警察は地域の清掃のために毒物探知犬の対策部隊と地域サービスの獣医スタッフの両方を呼び寄せ、その地域全体を捜索すると、新鮮な肉片からなる毒入りの小片と中毒の症状を示した犬を発見した。
直ちに、この狂ったジェスチャーをした容疑者を追跡するための調査を開始した。
この事件は、ますます不穏な様相を呈してきている。
アドロラート・ルベルト所長率いる同研究所の専門家らは、死因を解明し、どの物質が動物を死なせたのかを明らかにする必要があるため、サン・ピエトロ・アヴェッラーナのトリュフ農場で毒殺された犬の解剖検査がイゼルニア動物予防研究所で行った。
オイパ(国際動物保護機関)の動物保護団体による仮説では、その場で即死した15匹に関しては、非常に短時間で死亡させることができるカタツムリの毒が使用されたのではないかという見解だ。
しかし、中毒と使用された物質の種類の公式な確認は、動物の死骸の剖検検査の結果によってのみ得られることだろう。
最近では、犬の毒殺に使用された物質の正体も徐々に明らかにされている。
最も使用されているものの中には、自動車用の不凍液や殺鼠剤やストリキニーネなどが含まれている。
それらは、特別な処方箋や許可証なしで簡単に入手できるため、毒物の入手経路などから犯人を特定することは困難であり、捜査が難航している。
毒餌だけではない、肉団子の中に釘や針金や画鋲を入れて仕掛けた物もあり、大変悪質だ。
それを一口で飲み込んでしまったトリュフ犬は、壮絶な痛みでのたうち回り、悶え苦しんで死んでいったという。
どうして、そこまで残忍なことができるのだろうか、鬼畜外道の所業だ。
人間のエゴと私利私欲のために利用され、過酷労働を強いられ、挙げ句の果てに人間に殺される。
狡猾で卑劣極まりない現象の数々、密猟と毒殺で儲かるトリュフビジネスの闇は深い。
一刻も早く、犯人を検挙していただきたい。
森林警察とフロゾローネに駐留する毒物駆除犬部隊による検問が今も絶え間無く続いている。
サン・ピエトロ・アヴェッラーナの市域で、カラビニエリの環境専門家による全面調査に欠かせない存在は、森林で毒物を捜索するために訓練された警察犬だ。
毒入り餌を探す訓練を受けたベルギーの羊飼い犬、その名も「アフリカ」君が、数日間休むことなく被災地を捜索しているという。
最も危険な地帯での定期検査と毒物を一掃することを目的として、イタリアの他の地域でもさまざまな目的で活躍している。
さらなる動物の死亡を防ぎ、調査に有用な元素を回収することができるという、アフリカ君も優秀な「犬を救う犬」である。
毒餌や小動物、あるいは不審な死を伴う動物が発見した場合には、フロゾローネ森林カラビニエーリ基地司令部の対毒物探知犬ユニット(1515番)に連絡をするよう呼び掛けている。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie