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ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアとアルバニアで合意した移民協定とは

イタリア政府閣僚評議会議長国 公式サイトより licenza CC-BY-NC-SA 3.0 IT

2023年11月6日(月曜日)イタリア・ローマで、イタリア政府とアルバニア政府の間で「移民協定」について話し合われ、アルバニアの在イタリア大使ファブリツィオ・ブッチ氏の立会いの下で協定の署名が行われたと、歴史的かつ革新的な合意が発表された。

メローニ首相は、「この協定は、イタリアとアルバニアの戦略的パートナーシップを強化するもので、本質的には人身売買と闘い、不法入国者の流れを阻止し、真に国際的保護を受ける権利を持つ人々のみをヨーロッパに迎えるという3つの意味を持っている。ただし、未成年者、妊婦、その他の弱い立場の人々は対象外です。」と、述べた。


| イタリアとアルバニアの協定は何のためにあるのか

この議定書は、イタリアとアルバニアが地理的に近いことを利用し、双方の国の利益と願望の共通性も考慮して、移民の流れの管理における協力を強化する必要があることを強調しており、移民の流れを阻止するためにはこのイタリアとアルバニアの戦略的パートナーシップである協定は必要である。

不法移民や人身売買を撲滅し、同時に人権の保護を保証することを目的としている。

この協定の本文第2条には、「国際法と欧州法を遵守し、第三国からの移民の流れの管理の分野で」両国間の「二国間協力を強化することを目的としている」とある。

また、「未成年者、妊婦、弱い立場にある者を除き、イタリアの海岸や領土に到着する移民ではなく、海上で救助された移民には適用される」と明記してある。

ジョルジア・メローニ首相とエディ・ラマ首相が笑顔と握手の間に発表した。

移民の流れの管理に関するイタリアとアルバニア政府間で、送還センターの組織からゲストの最長滞在期間など14項目について合意に至った。

イタリア閣僚評議会議長官邸 公式Youtubeチャンネル キージ宮殿より、2023年11月6日 - ジョルジア・メローニ首相とアルバニア共和国のエディ・ラマ首相による報道陣に対する声明。

| 焦点は2つのアドホックセンター

「年間36,000~39,000人収容施設」を創設

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Google マップより イタリア・バーリ港とアルバニア・シェンジン港の距離感、2つ目のセンターであるジェデルの位置

イタリアは南伊都市のバーリ近郊であるアルバニアのシェンジン港と内陸20キロのジャデル地区を使用し、イタリアから送還された移民を管理するコンピテンスセンター2つを建設する予定だ。2024年春より稼働開始を目標としている。

センターが建設される地域はアルバニアが無償で供与するが、センターの建設はイタリアの責任の下、建設費用も全額イタリアの自腹。
アルバニアのセンターに必要な医療サービスを保証するための医療体制を確立するのもイタリア当局の責任となる。

センター内の秩序と安全は、境界線と移動はアルバニアによって制御および管理されが、管轄はイタリア当局になるので、イタリア法および欧州の関連法に従うという。


・1つ目のセンターは入国用(シェンジン港)
移民たちはまず、シェンジン港で下船し、身分証明の確認と検査、後続手順のためのCPRモデル構造を作成する。最初の受け入れ施設。

・2つ目のセンターは入国審査用(ジャデル地区)
海上で救助された移民の一時受け入れをする収容施設。


これらの施設に、初期段階では最大3,000人を収容することから始め、難民申請の処理や、場合によっては本国送還や帰還の目的で手続きを迅速に完了するために必要な期間中は、これらのセンターに不法にイタリアに入国した者を滞在させることにする。
完全に稼働が開始されると、年間36,000人から39,000人が流入するだろうとメローニ首相は宣言した。

また、この議定書はイタリアの海岸や領土に到着する移民には適用されず、地中海で海軍や沿岸警備隊などのイタリアの船によって救助された移民には適用されるが、NGOの船には適用されない。

メローニ首相によると、この取り組みは、近年リビア、チュニジア、トルコから地中海を越えて危険な船旅をして数十万人の移民が到着しているランペドゥーザ島のホットスポットなど、イタリアの最初の亡命センターの慢性的な過密状態を緩和するのに役立つ事を目的にしていると言っている。


| 問題点と国際法、協定の有効期限

これら当局と移民の間で生じる可能性のある問題点と論争は、「イタリアの管轄のみに従う」としている点である。

管轄とは、建造物内に留まる許可が失効した場合、イタリアは自費で直ちに移民をアルバニア領土外に移送しなければならない。
アルバニアの送還センターでの移民の滞在期間は、イタリアの現行法で認められている最長収容期間を超えてはならない。

イタリア当局は、施設内での人々の処遇が、「国際法に従って基本的人権と自由を尊重する」よう努めなければならない。

「弁護の権利を確保するため、締約国は、弁護士、その補佐人、並びに国際的保護の申請者に助言と支援を提供する国際機関及び欧州連合の機関に対し、この議定書に規定されている施設へのアクセスを許可するものとする。適用される制限はイタリア、ヨーロッパ、およびアルバニアの法律によって規定される。」

この協定は5年間有効である。

両当事者の一方が失効の少なくとも6か月前に通知して議定書を更新しない意向を伝えない限り、これは暗黙のうちにさらに5年間更新されることになる。

| 野党批判と欧州連合の立場

イタリアとヨーロッパで多くの反応を引き起こしており、移民問題を「アウトソーシング」する計画であると、すでに欧州連合の厳しい目が向けられている。

メローニ首相は、欧州規模の革新的な解決策だと語るが、野党はこの計画を「実現不可能」の烙印を押し、欧州委員会は協定の詳細を知りたいと求めている。

なお、欧州委員会は、イタリアとアルバニアが2つの移民受け入れセンターを建設することで合意したことについてはまだ立場を表明しておらず、地域法と国際法を遵守する必要があると警告するにとどまっている。
現在、欧州委員会が書類を検討中である。

欧州委員会の報道官は、「イタリアとアルバニア当局の間の作戦協定については承知しているが、詳細な情報はまだ受け取っていない。この作戦協定はイタリアの法律に置き換えられ、実施される必要があることだけ、我々は理解している。そのような合意が共同体法と国際法を完全に尊重するものであるかが重要で検討中だ」と述べた。

この革新的なメローニ政権とアルバニアとの移民協定には、左派野党猛反対である。

EU連合に加盟していないアルバニアにイタリアが完全管轄で管理する移民送還センターを設立することについて、野党民主党プロヴェンツァーノ「良く言えば雑なやっつけ仕事、悪く言えば権利侵害だ。メローニ氏の教義は明らかで、彼女はEUのダブリン規則を変えるつもりだ。イタリア国家国民主権の友人らを動揺させないためにな。機能すらしない価値のない協定をチュニジアと結んでるが、それはどうするつもりだ、チュニジアを放棄しているのではないか」と批判した。

また、イタリア左翼のニコラ・フラトイアンニ書記も批判的で、「はじめから我々に必要だったのは、救出された漂流者たちのアルバニアへの移住だけだったということだ、政府はヨーロッパで白旗を上げ、アルバニアに避難先を探している」とコメントした。

緑の連盟の共同スポークスマンのアンジェロ・ボネッリ氏は、「本当の意味での国外追放だ」と言い、+エウロパ(中道左派)のリッカルド・マギ氏は、「イタリアのグアンタナモ収容所ってことだな」と、被拘禁者の拘禁状況を監視する可能性なしに欧州連合外に創設するつもりだと非難している。


| イギリスとルワンダのようなものなのか?

実は、不法移民を他国へ送る対策は他の国でも似たような「不法移民法」と「協定」がすでにある。
それは、イギリスとルワンダ間の「移民と経済発展パートナーシップ」だ。

イギリス政府は、欧州から英仏海峡を渡ってきた亡命希望者の一部を、東アフリカのルワンダへ移送する新たなスキームを作った。

英国政府のプロジェクトであったこの協定は、元英国首相のボリス・ジョンソン氏と当時の内務大臣プリティ・パテルによって署名され、現在もリシ・スナク首相によって更新された。
しかし、人権問題に取り組む団体を含む多数の上告により法廷でこの移民協定は阻止されている。

イギリスの計画では、イギリスに不法入国した者・不法移民または仮亡命希望者とみなされる人々は、申請が処理されるまでは、ルワンダに移送されることになる。
なんとか亡命を獲得した人々は、依然としてアフリカの国に留まるべきであるというものである。

イタリアとアルバニアの協定は、英仏海峡を渡って到着する移民の管理に関するイギリスとルワンダ間の協定を思い出させる。


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Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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