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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

ぼったくりの夏、イタリアの夏。「クリエイティブすぎるレシート」、無銭飲食イタリア人観光客のツケを首相が支払う珍事

iStock-Bet_Noire

 イタリアで今年の夏に話題となった「クリエイティブすぎる狂ったレシート」の写真とイタリアの各地で観光客からの不満が勃発したニュースは、世界中で注目を集め、CNNもこの件をイタリアの夏のぼったくり事情、「恥」だと揶揄していた。

CNNは、「この国(イタリア)が提供するものをすべて楽しんだ人にとって、イタリアでの休暇はかけがえのない経験となるでしょう。しかし、バーやレストランでの一連の価格スキャンダルが外国人観光客にもイタリア人観光客にも同様に影響を及ぼしたことを受け、2023年の夏は史上最も高価な夏となるだろう。」と、紹介した。

イタリアの観光地で、今季の価格スキャンダルとして最初に紹介された事例は、1つのトーストを2つに切ってもらったら、2ユーロ(約312円)の料金が加算されていたと、コモ湖を訪れた観光客がその違法な請求レシートを公開したことから始まった。

 さらに、コモ湖のバールで、カプチーノにココアをまぶすのに10セント(約16円)の追加料金を取られた観光客もいる。これに対し、「イタリアのカフェバールでは、カプチーノにココアパウダーを上にまぶすことはめったにない」とバリスタは弁解した。

 私は、カプチーノの上のココアパウダーに追加料金を取られたことなど、一度もない。バリスタからは「要る」か「要らない」かを尋ねられることはある。入れてもらってもそれはカプチーノの料金に含まれている。

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筆者撮影、朝食(コラツィオーネ)でカプチーノを頼んだ時にチョコレートで花を描いてくれた。

 8月22日(火曜日)サレント半島のレッチェ県、歴史的中心部にあるサンタロンツォ広場のバールで、女性がクレープを注文し、バールのスタッフそれを半分に切ってくれるように頼んだ。支払いの際にレシートを見て驚いた女性。クレープの価格4.50ユーロ(約712円)に加えて、「半分に割った代金」1 ユーロ(158円)が追加されてた。 店側は1ユーロの追加料金について、「クレープを切るときには、まな板やナイフなど、何かしらのカトラリーを使い、使用後はそれを洗わないといけない。その料金だ」と答えた。

 イタリアの暑い夏で、最も「クレイジーなレシート」とアメリカ人ジャーナリストが、8月にイタリアで起きた流血事件にまで発展した最も印象的な報道事例をレビューしたことで、アメリカでも話題となったのが、1皿のお料理をシェアをするために、取り皿に追加代金が加算されていたというものだ。

 トーストを半分に切って割るだけで追加料金2ユーロをとったぼったくり店に続き、またリグーリア州サヴォーナ県の居酒屋を訪れた父・母・3歳の娘のイタリア人3人家族は、娘にも少し味見をさせてあげたいと思い、お店に小皿を頼んだら、取り皿代の追加料金がレシートに記載されてあったと、レシートと共に店側の対応をレビューした。
家族は、トルフィエ・アル・ペーストを頼んで取り皿を頼み、2ユーロ(約312円)の追加料金をとられた。

 日本人観光客もイタリアに来て、よく1皿を皆でシャアしたいときに、お店側に"取り皿"を頼むが、イタリアでは、料理をシェアするための取り皿(空の受け皿)を頼むと、2ユーロ(約312円)の追加料金をとるお店もあるのだという事実は、前代未聞であり驚愕した。

 イタリアでもレシートは一つ一つよく見て料金を確認し、何に対しての代金なのかを照らし合わせて、そこにかかる税率と税額についてをその都度する必要がある。
この場合は、レシートの一番上にあるのがコペルトと言い、日本でいう"お席代・チャージ料・お通し代"の事である。
それは、テーブルクロスやナプキンなどのクリーニング代だという考えだから、そのリネン類を表す呼称で呼ばれる。
パンやグリッシーニなどが頼んでもないのにテーブルに出されるが、それはコペルト代に含まれているものである。
このサヴォーナ県の居酒屋のオーナーは、「3人(内一人は3歳児)なのに4人席に通してあげた、1つのテーブルに4枚も取り皿を運ばされ無駄なサービス労力と追加皿を洗う食洗機を回す費用を正当に請求したまでだ」と反論した。また、追加料金はメニューに明記されていると答えた。店主は、自身のレストランに対するネガディブな口コミがレストランの評判を落とす可能性があるとして、法的措置を検討していると述べた。

 X(旧Twitter)でこの事件をポスト(ツイート)すると、店側がその料金をとるのは妥当だという意見リプもあった。また、

取り皿だって無料であると信じる根拠は無い
日本人は、お客様は神様だと錯覚したままだ
トーストを半分に切る行為を調理人に無料で要求する権利なんか無い
飽くまでも善意があった場合だけの幸運でしかない

という意見をコメントしてきたフォロワーもいた。

 私は、サービス料金形態の一つとして「取り皿代」という名目がレジに登録されており、サービス料金ではなく、物品税率の10%を加算している時点で違法であると見ている。
また、現地語(イタリア語)で、きちんと違法であることを抗議すれば、返金してくれていたとも思える。

 また、オスティア出身の若い母親は、電子レンジで哺乳瓶を温めてもらったら、レンジ使用代として2ユーロ(約312円)を請求された。

 サルデーニャ島のホテル・チェルボに宿泊した観光客の夫婦は、コーヒー2杯と水2本で60ユーロ(約9,500円)を請求された。
このホテルのオーナーはCNNの取材に対し、「この価格は明確に表示されており、その料金になった理解は、近くの港に停泊している豪華なヨットを眺めることができるという、"美しい見晴らし景観料"です。」と語った。
ロケーションビュー追加料金は、領収書に1泊毎に2ユーロと記載されていた。

 これは、日本でも山側・海側などが選べ、部屋の階数が上か下かでもお部屋の価格は違うので理解ができる。眺めが良いとグレードの高いお部屋になり、最高のオーシャンビューを愉しみ、ゆっくり過ごしたいと思えば、そこにかかる景観代も惜しくは無い。
しかし、窓から見える「停泊している豪華なヨット」、それが、美しいかどうか、豪華かどうかは見る側の主観で決めることであって、飲み物代金に店側の主観で決めつけた景観代を追加料金として加算したことを、なんらおかしなことだとも思わず、堂々と悪びれもせずCNNのインタビューで答えるあたり、もう、振り切っており、ここまでくると開き直り具合に"いさぎよさ"まで感じる。

 例えば、ヨットが港に停泊していなかった場合の料金形態は、どうなっているのだろうか。季節が変わって、他の季節だとしたら、また料金は変わるのだろうか。

 シチリア・パレルモのレストランで、誕生会を開いた人が、自分たちで外部のケーキ屋から買ってきたケーキを持ち込み、パーティーの最後にケーキを20等分に切って出して欲しいと頼んだ。
そのケーキカットにかかるサービス代金として20ユーロ(約3,170円)を支払ったと言う。

イタリアでは、レストランで誕生日会をする際、ケーキ屋で買ったケーキを持ち込むことはよくあることである。誕生日を主催するのは、祝ってもらう側が準備し、来客に振る舞う、側に居合わせた赤の他人の人にも振る舞う。

 私も、誕生日会をしているテーブルの隣の席に偶然居合わせることは、これまで何度も経験がある。イタリア人的「幸せのお裾分け」という文化で、赤の他人の私にも切り分けたケーキをくれたのだ。
頂いたケーキに対し、「ケーキ、ありがとうございます」の代わりに、「お誕生日おめでとうございます」と、見知らぬ人の誕生を祝う言葉で返すのが、イタリアの風習である。

 そこで、レストラン側の主張では、ケーキをカットする労力とサーブ代とお皿・フォーク貸代とお皿を洗う食洗機の水と洗剤と電気代、それら全ての手間賃という料金で20ユーロ(約3,170円)加算した。
「その料金は、妥当だ」という意見もフォロワーから寄せられた。
何度も繰り返すが、その"手間賃"という名目に、物品税率の10%を加算しているので違法である。

 シチリアの観光名所シラクーサ中心部のレストランを友人5人のグループで訪れ、魚ベースのディナーに476ユーロ(約7万5,500円)も支払ったという観光客が、恥辱の報告をCNNにした。
「ロブスターが非常に高価であるのは知ってはいたが、貧乏旅行をしていたので、1人あたり126ユーロ(約2万円)も払ったのは大誤算だった。」と語った。

 これに関しては、私は妥当な価格であると判断する。
元々、イタリアでは魚はとても高価である。それをレストランの席代、サービス代、飲み物代、時間と手間のかかる魚料理、1人あたり126ユーロ(約2万円)のディナー料金は、海の無いミラノで美味しくいただけるのならば、安いくらいである。

 CNNは、最悪のケースの中には入浴施設も含まれると続けている。

 南イタリアのプーリア州では、平日の海岸に並べるビーチペット(サマーベット)2台とパラソルの1日のレンタル料金は平均50ユーロ(約7,900円)で、週末にはほぼ2倍になる。
北イタリアでは、混雑したビーチで、ビーチペット(サマーベット)を最前列に並べて座るための料金が別途かかる場合がある。特にリグーリア州やプリミのポルトフィーノなどの最も高級な海水浴場がある地域では、平日は1日あたり約150 ユーロ(約2万3,800円)からで、3倍の価格である。

 これらのイタリアの事件は、実際に「狂ったレシート」として、消費者保護団体「Consumerism No Profit」によって文書化されており、この夏イタリアの観光地での価格が130%という驚異的な値上がりを報告しているとCNNは書いている。

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MaremmaOggi.net より

 8月15日、グロッセート県のアミアータ山で休暇をとっていた少年は持ち帰りサービスの費用として、紙袋やカトラリーを含む4.50ユーロ(約708円)を請求された。
詳細には、注文は3人分で、持ち帰りの金額1.50ユーロ(約236円)が自動的に3倍となり、加算されていた。少年は、「持ち帰り用の紙袋とカトラリーセットが3つではなかったとしても、3倍取られた」と指摘した。

 少年は、この食堂のスタッフに説明を求めた。「紙袋とプラスチック製カトラリーのパックに4.50ユーロという価格が正当だと思うのですか?本当に高すぎるように思えますが」と質問をしたら、奥から責任者(店長)が出てきて、間違いを認め、3ユーロを返金をした。

 ステル・デル・ピアノ市のプラート・デッレ・マチナイエで起こったこの出来事を地元新聞マレンマ・オッジが報道した。

 その後、店長は「スタッフが実際に3ユーロ多く請求したことを確認する機会がなかった」と説明した。

| レストラン経営者の弁解

 レストラン経営者たちは、自分たちが受けなければならなかったすべての増額を引き合いに出し、経営者側の意見を述べている。

 「2022年と比較して小麦粉は+200%、モッツァレラチーズは+60%で価格が値上がりした。
ここ10年間で敷地賃料は+30%の増額で、さらに値上げは続く可能性がある。私たちはこれについて話しているのではなく、2ユーロ追加のレシートについて話しています。たまたま、こうした大騒ぎは、インフレ、住宅ローンの高騰、投機、銀行への強制援助という大きなドラマを忘れなければならないときに、提起されているのだ。」と語った。

 「2つや3つのスキャンダラスなレシートで、レストラン全体のカテゴリーと飲食店経営者全体がこのようなことをしていると見られるのは心外である。これらは個別の異例のケースであり、いずれにしても、どのレストランでも、メニューにはすべての価格が明確に表示されている。」

 レストランの知名度の有無に関係なく、それらは法外な数字であることに変わりはないと、TNI リストラトーリ イタリアの社長ラファエーレ・マデオ氏は付け加えて説明した。

これまで、「イタリアの夏を救う」のは外国人観光客だった。

 国境を越えてイタリアに到着する観光客は減少を補って余りあるもので、イタリア観光省は夏には6,800万人の観光客がイタリアを訪れると予想しており、パンデミック前の数字より300万人以上多いと発表した。

 イタリア観光省によると、より多くの支出と長期滞在をする傾向にあるロシア人観光客に代わって、今年は米国とアジアの観光客が大挙して訪れたと言う。ロシア人観光客が減ったのは、明らかにウクライナでの戦争関連の理由である。

 価格を左右しているのはレストラン経営者だけではない。
燃料とエネルギー価格の高騰により、今年の夏は信じられないほど全てが高価になった。


| 外国でイタリア人観光客が無銭飲食、代金をイタリア首相がそのツケを払う珍事

 イタリアの物価は、他の地中海の国々の観光地に比べて約240%も高く、制御不能になっているため、多くのイタリア人が通常のバカンス目的地を放棄し、代わりに、イタリア料理なのにリーズナブルなアルバニアやモンテネグロなどの近隣諸国をバカンス先に選択した人が増えた。

 伊・メローニ首相もアルバニアに短いバカンスに出かけた。"メローニ首相が訪れたレストラン"として、アルバニアに休暇に出かけるイタリア人観光客の間で有名になったレストランで、飲食をした代金を支払わずにレストランから逃げた4人のイタリア人観光客の無銭飲食事件があった。
しかも、その4人が食事代を支払わず"食い逃げ"した代金をメローニ首相が支払ったという異例の珍事があった。

 メローニ首相は、アルバニア訪問中、アルバニア在イタリア大使に「これら愚か者たちの罪を解決しに行くよう」勧めた。

 彼女の個人資産でレストランが踏み倒された8,451レクを支払ったのだ。

 メローニ首相は、「恥ずかしい。私が代表したいイタリアは、こうしたことで海外で話題になるような国ではないし、他人の仕事を尊重してないし、イタリアはそれが良いとだとは思わない国です。他のものを台無しにする。」と、怒りのコメントを表明した。

アルバニアのメディアは、メローニ首相について「厳格な母親」と報道した。

| 今年のイタリア人の夏のバカンス事情

 2016年と2020年に次いで地球上で3番目に暑い年となった2023年、今年は、2,000万人以上のイタリア人が8月に休暇を取ることを決めており、7月と比べて25%増加していると言う。
7月には1,560万人のイタリア人が休暇をとり、前年同時期と比べて1%増加した。

 最新のイタリアの農業生産者団体「コルディレッティ(Coldiretti)」とイクセの分析から、今までならば熱帯と言っていたところ、「狂気の気候」と表現されるようになった気候に加え、ガソリンとディーゼル代の価格高騰、これまでのバカンスのために貯蓄をしてきたがその全てを流出させてしまうほどのインフレ高物価にもかかわらず、イタリア人が8月に休暇を過ごしたいという強い願望を捉えているということが明らかになった。

 農業生産者団体コルディレッティによると、8月は伝統的に休暇や旅行は捧げられてきたが、今年はイタリア国内が休暇場所の目的地となっていることが明らかで、イタリア人に選好されていることが記録されていると、強調している。

 イタリア人にとって、居住地に近いことが原動力であるが、旅行者のうち、ウクライナ戦争の影響で、問題のある国際情勢に関連する懸念にもかかわらず、海外で休暇を過ごすことを決めたイタリア人の割合は29%もあった。
イタリア人のバカンス期間は、50%の人が1週間未満、3人に1人が1 ~ 2週間、非常に幸運な4%の人が1ヶ月以上の休暇をとる。

 イタリア人にとっての一番人気の目的地は常に海だ。マイナーな場所では、公園、田園地帯、山々、小さな街。
イタリア人の72%もの人が、「たとえほんの少しの期間でも、住んでる町から離れ、他の場所を訪れる」と公言した。

 私は、ずっと夏の間も仕事なので、バカンスには出かけられない。
日本からイタリアへ観光にお見えになるお客様のアテンドガイドをしている。夏限定の季節労働である。

せっかくイタリア旅行を楽しみにして遠い日本からお越しになる方々を、こういった「狂ったレシート」の違法請求から、お守りするのも私の仕事である。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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