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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

日本から123トンの魚を輸入しているイタリアが報じた福島のALPS処理水海洋放出について

福島第一原子力発電所 Santiherllor-Shutterstock

 イタリアは、8月24日(木曜日)に、『福島では放射性水を海に放出を開始した。中国の怒り。IAEA「放射能は限界値以下」』という見出しでテレビ報道各社、イタリア国内の大手新聞社も全社、福島第一原発の処理水を海洋放出開始を報じた。

 内容は、IAEA=国際原子力機関が放出計画を「国際的な安全基準に合致している」と結論づけられたあと、日本政府は発表通り、福島原子力発電所のタンクにある12年間保管されていた放射性処理水の海洋放出を現地日本時間8月24日13時(イタリア時間6時)に始めたというもので、その詳細についてや、日本の近隣諸外国である中国と韓国の反応も紹介している。

 原子力発電所の敷地内に配備されている1,000基以上のタンクには、現在、約134万トンの処理水が蓄えられており、早ければ2024年にはその最大容量に達すると予測されている。そのため、発電所の運営者である東京電力(東京電力)は、日本の安全基準で許容される限度を尊重して液体を海水で希釈し、その後、現場から1kmに位置する海底トンネルを通じて放出を開始する予定である。
今後、この計画は少なくとも30年間続く予定であり、議論が分かれていると、イタリアでは説明されている。

「ALPS処理水」についてはの表記・表現は新聞社によって様々で、"東京電力福島第一原子力発電所の「処理水(l' acqua trattata)」の太平洋への放出が始まった。"と書いている記事と、"日本は原子力発電所からの「汚染水(l'acqua reflua contaminata)」の海洋放出を開始した。"と書いている記事があった。

 共同通信や日本の某新聞社の記事をそのままイタリア語に翻訳しているANSA.itやそれを意訳して紹介したイタリア人記者のコラム記事には、「海は人類のものである。日本は、海洋放出が安全で海洋環境や人間の健康に無害であること、尚且つ、モニタリング計画が有効かつ効果的であることを実証する必要がある。日本の強制汚染水海洋放出開始は、世界公共の利益を無視した極めて利己的で無責任な行為であり、将来の世代に傷跡を残す危険性がある。」と厳しく批判している記事も散見された。


環境省「ALPS処理水」とは ~汚染水の浄化処理~ より

事故で発生した放射性物質を含む汚染水を多核種除去設備 (ALPS : Advanced Liquid Processing System) 等により、 トリチウム以外の放射性物質を環境放出の 際の規制基準を満たすまで浄化処理した水を 「ALPS処理水」という。

WHO 飲料水の基準 より

WHOの飲料水水質ガイドラインにおけるトリチウムのガイダンスレベル(10,000Bq/L)は、ガイダンスレベルのトリチウム濃度の水を、1年間毎日2リットル(年間730リットル)摂取したと仮定した場合に、個人の年間線量が 0.1 mSv となるように計算された値。


また、『〜「水産物輸入阻止、無責任な選択」という中国の怒り、「透明性を求めている」韓国〜』というサブタイトルで、 この操業は、環境への影響の可能性を巡る近隣諸国や製品の評判を懸念する地元漁師らの抗議にもかかわらず、日本政府は強行したものであるとも、イタリアでは紹介されている。

 中国政府は、

「身勝手で無責任な放水」と、悲惨な福島原子力発電所の処理水の海洋放出事業開始後、日本を改めて厳しく批判し、この動きを「極めて利己的で無責任」と定義した。

「日本政府は、放出に関する決定の正当性と合法性、浄水場の長期信頼性、核汚染水に関するデータの信頼性と正確性を証明できなかった」と中国は非難した。そして、中国が下した日本の魚類輸入禁止は、日本の10都府県からの食品輸入を阻止し、日本の魚製品に対して大規模な放射性物質検査を導入している中国を納得させるものではない。両国間の領海をめぐる紛争をさらに激化させる新たな機会となる可能性がある。

と、中国の反応をイタリアは紹介した。

⭕️中国の日本の海産物禁輸措置、日本経済への影響、世界のアナリスト達の見解は

経済誌 Maket Screener イタリアは、この中国の日本の海産物禁輸措置について、

「 中国による日本産魚介類の禁輸は経済的よりも政治的な意味合いが大きい」

と題し、結論から言うと、「経済的には、日本産食品の出荷禁止による影響は最小限だ。」と見ている。

 中国は日本にとって最大の水産物輸出市場かもしれないが、自動車が大半を占める日本の世界貿易に水産物が占める割合は1%にも満たないため、中国政府による水産物の閉鎖禁止はむしろ政治的な意思表示だとアナリストらは指摘している。野村総合研究所によると、中国と香港への水産物輸出は、昨年の日本の総輸出に占める割合はわずか0.17%だったとのこと。

「たとえ輸入停止が1年間続いたとしても、日本の国内総生産を押し下げる効果は0.03%に過ぎない。」

 日本で漁獲される魚のほとんどは国内で消費されるため、大手水産物メーカーのマルハニチロとニッスイは禁輸による影響は限定的だと予想していると広報担当者がロイターに語っている。実際、マルハニチロもニッスイも株価に影響が出ていない。基準となる日経平均株価の0.87%上昇をやや下回ったものの、むしろ、マルハニチロは0.12%上昇、ニッスイは0.75%上昇した。

 オランダの銀行ラボバンクの上級グローバル水産物専門家ゴルジャン・ニコリク氏は、今回の禁止について「日本にとって中国は主要な輸出国ではない。水産物分野への影響はそれほど多くないだろう」と述べた。

 中国の税関データによると、世界で最も高価な魚の一つであるクロマグロはすべて日本から調達しているが、最大の輸入量はホタテ貝である。データによると、日本が昨年中国に供給した水産物15万6000トンは、中国の水産物輸入総額188億ドルの4%未満に過ぎず、最大の供給国はエクアドル、インド、ロシアだ。

 昨年、日本は871億円(6億ドル)相当の水産物を最大の貿易相手国である中国に輸出したが、その5分の1は中国本土に次ぐ日本の水産物市場である香港がさらに75.5ドルを占めた。アジアの金融の中心地である香港とギャンブルの中心地であるマカオはどちらも中国に統治されており、日本の10地域からの輸入を禁止しているが、経済アナリストらによると、自動車と機械が大半を占める日本の総輸出額が100兆円近くに達していることを考えると、中国の動きの影響は無視できるとの見解だ。

韓国政府は、

 日本の計画の分析に基づくIAEAの審査結果を尊重するが、国民の間で根強い懸念を考慮する必要があると述べ、日本の決定を支持はしているが、データ公開の透明性を求めている。

 韓国のハン・ドクス首相は、処理水の海洋処分計画は、策定された基準と手順に従って実行されれば重大な被害を引き起こすことはないはずであるとして、「過度の懸念」について言及した。また、日本政府に対し、今後30年にわたって続く排水プロセスについて、透明かつ責任ある方法で情報を発信するように求めている。

こういった、日本の近隣諸国の反応と批判や懸念を見た

イタリアは、

 処理水を海洋放出開始以後、日本は国際社会の前で自らを被告席に置き、今後、何年にもわたって国際的な非難に直面することになる。彼らは "生態系の破壊者であり、地球規模の海洋環境の汚染者"として非難されている。日本は国際社会の前で自らを被告席に置き、今後何年にもわたって国際的な非難に直面することになるだろう。

と、辛辣に批判している。

 「そのプロセスは安全なのでしょうか?」

 海に放出する前に、水は「Advanced Liquid Handling System」(ALPS)と呼ばれる濾過プロセスを通じて処理される。1つを除いて、放射性物質のほとんどを除去する作業であると、Corriere della Seraが報じた。その一つが、トリチウムであり、既存の技術では除去することができない。これは海水中に自然に存在する放射性同位体、放射性核種であり、放射線による影響は低い。トリチウムは、吸入または摂取した場合、非常に高用量の場合にのみ危険をもたらす。

コッリエーレ・デッラ・セーラ誌は、 「トリチウムは何十年もの間、世界中で稼働中の原子力発電所や、フランスのラ・アーグなどの核廃棄物再処理工場から定期的に水中に放出されてきた。」と、近隣国で原子力発電所を国内に56基所有・運転するフランスの実態も報じた。

| 日本から123トンの魚が到着するイタリア

 イタリアの農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)によると、年間で日本からイタリアに到着した魚は12万3000kg以上で、これは世界中からの重要な魚製品の総量の0.02%未満に相当する。
これは、2011年3月の災害で破壊された福島原子力発電所からの廃水を放出する決定に応じて、日本からの魚製品の輸入を禁止する中国の決定に関連して、コルディレッティが2022年イタリア国立統計研究所(ISTAT)の データを分析した結果から浮かび上がった。

 コルディレッティによると、「実際には、日本海の水域で漁業を行うすべての国からの輸入を考慮すると、イタリアは魚製品を外国に大きく依存しているため、その量は増加し、日本からの警鐘は、イタリアで消費される鮮魚の80%以上が海外産である状況において、イタリア国内の魚資源を保護することの重要性を浮き彫りにしている。」と言う。

 それどころか、コルディレッティは続けて、「漁業に関するEUの新たな規則は、イタリアの魚の3匹に1匹が食卓から消える危険性をもたらし、イタリア漁船の最も生産性の高い部門に影響を与えるトロール漁の禁止により、真の自国漁獲への道を開くことになる」と述べた。 

| 海外製品の侵入から消費者を守れ、原産地を管理しイタリアの魚の伝統を保護する

 イタリアは、「イタリアの日本からの魚輸入量は輸入魚全体の0.02%に過ぎないが、福島の排水が流れ込む海は日本の漁民だけではないことを考慮すべきである。」と、福島の新鮮な魚と冷凍の魚について、消費者の懸念と憶測記事が飛び交っている。

 イタリア製品もヨーロッパの国境を跨いで入ってくるすべての製品も、 "同じ基準" を尊重し、店頭で販売されている。イタリアや近隣諸外国の食品の背後には、環境、労働、健康に関わる同様の品質経路があることを保証する必要がある。これは、7,500キロメートルの海岸線を有し、品質と安全性の点で独特の食文化を提供するイタリアのような国は、国家漁業を保護するためには特に重要なポイントとなる。

 イタリア人は年間一人当たり約28キロの魚を食べており、ヨーロッパ平均の25キロを上回っている。そこで、農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)のアドバイスでは、購入した魚の産地を直接確認するには、法律で漁場を表示する必要があるカウンターのラベルを確認し、地中海の魚を購入したい場合は「Fao 37地域」を選択することだと言っている。


| イタリアは福島産の魚の見分け方を紹介した「Fao 37地域」とは

日本の海域 ZONA 61 Pacifico Nord-Occidentale
 
イタリー24プレスというニュースサイトでは、「日本政府や原子力機関(IAEA)の安心を信用できない人のため」にと題し、雑誌『イタリア・ア・ターヴォラ』が、日本近海、特に全土で獲れる魚を見分ける方法というものを提案した。

それが、Fao 37地域:FAO漁獲統計海区(FAO Fishing Area)の水域名というものだ。

 消費者には大規模な流通で販売される魚のパッケージに表示される数値コードが提供されている。これは、製品がどこから来たのかを理解するための重要な数字で、いわゆるFao漁場地域であり、魚の起源を知るための重要な情報となること、そして、
 "福島地域を特定する番号はないが、日本の海域は番号61(ZONA 61 Pacifico Nord-Occidentale)で指定されている"
したがって、このデータがパッケージに表示されている場合、その魚が太平洋(正確には北西太平洋)の海域で捕獲されたものであることは間違いない。この海域には、日本に加えて、ロシアと中国の海岸、太平洋沿岸の海域も含まれると言う情報は消費者に与えていると、イタリアでは紹介されている。

 東電は、同日中に原発近海の放射性物質を監視し、明日データを公表する予定だ。
国際原子力機関(IAEA)は先月、ダンピング計画は世界の安全基準に沿っており、人々と環境への影響は「無視できる」との判決を下した。

経済産業省 「安全対策・風評対策の取組」〜解説動画(知ってほしい5つのこと)〜 より 

トリチウムについても安全基準を十分に満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。薄めた後のトリチウムの濃度は、国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満になります。


経済産業省 @metichannelチャンネルより

| IAEA、福島の水中のトリチウムは基準値をはるかに下回る

日本が放出した福島の放射性水中のトリチウム(水素の放射性同位体、編)の濃度は危険限界値を「はるかに下回っている」と国際原子力機関(IAEA)は述べた。
 
 IAEAの専門家は今週、準備された水のサンプルを収集し、「独立して実施された現地分析では、放射性トリチウムの濃度が「運用限界の1リットル当たり1,500ベクレル(Bq)を大幅に下回っていることが確認された。」と、作戦を監督する国連機関は声明で述べた。

経済産業省 資源エネルギー庁
〜安全・安心を第一に取り組む、福島の"汚染水"対策③トリチウムと「被ばく」を考える 〜 より

年間約2ミリシーベルトの放射線で遺伝子が受ける損傷の頻度は、紫外線などによる損傷の頻度の100万分の1以下です。このため、トリチウム原子がヘリウム原子に変化することで遺伝子にもたらされる影響については、自然界と同程度の放射線による被ばくの場合、測定可能なレベルのものにはならないと考えられます。

<編集部からのお知らせ>
当初使用していた画像について、福島県の風評被害につながる危険性があると判断したため、新たな画像に差し替えました。(2024年2月24日19時36分)

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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