イタリア事情斜め読み
イタリア移民急増で非常事態、収容施設は民間企業が管理する巨大ビジネス、その闇と実態
4月11日、イタリアは、ムスメチ市民保護および海洋政策担当大臣の提案に基づき、閣僚評議会は、移民の流れの例外的な増加に関連して、国の領土全体で6か月間の「非常事態宣言」を承認した。
移民は最初の受付センターであるランペドゥーサ島のホットスポットに一時収容されるが、最大収容数が4倍に膨らむ過密状態である。
今後数か月で、さらにその数も増加するという予測がされている。
移民シェルターの混雑を緩和する特別措置を可能にするためのものが「非常事態宣言」である。
|「非常事態」の対策内容とは
1、迅速な移民の身元確認、亡命庇護希望者保護ステータスの認定、承認手続きの時間短縮化、早期国外追放活動
2、本国送還センターCPRを新たに新設、特別コミッショナー設定、統合プロジェクト設定
イタリアに留まる権利を持たない移民の本国送還を可能にする構造や新しい本国送還のための拘留センター(CPR=Centro di Permanenza per il Rimpatrio) の開設などが盛り込まれた。
受け入れのニーズ、滞在の必要条件を満たしていない移民の身元認識と本国送還の両方を迅速に進める緊急に提供することができるようになるという。
その新構造を作成するためには、特別コミッショナーの措置も必要である。
フロー管理により、効率的かつタイムリーな対応を行い、庇護希望者の承認手続きの時間短縮化を図る。
マッテオ・ピアンテドージ内務大臣によると、強制送還などの対策をとるための費用として500万ユーロ、日本円でおよそ7億3,600万円を拠出するとしている。
3、現行法令の見直しと改正:非政府組織 (NGO) に所属する船舶に関する法令
海軍閉鎖や港の封鎖を行う安全命令の回復。
複数回の救助や行政上の入港停止を無視し、救助活動を妨げるものやNGO船舶を禁止する。
それに対し、 野党・左派政党によると、
「ピアンテドージ内務大臣が、ますます遠くの港をNGO船舶に割り当て始め、最も重要な地域でNGO船の数を減らしている。NGOによる救助は平均して上陸のわずか12%にすぎないという具体的なデータを出してきて、あたかもNGO船舶が移民を惹き付ける"引き寄せ要因"であるという誤った仮定に基づき、NGO救助船の弱体化を諮ったが、移民のイタリア上陸はますます増加した。」
と、メローニ政権を批判をしている。
| 非常事態宣言は本当に必要だったのか?
野党議員は、そもそも第一に、「非常事態宣言」は必要だったのか?
本当は「緊急事態」でもないのでは?と指摘した。
実際には、今年3月には約13,000人の移民がイタリアに上陸したが、これは、2022年7月の13,802人とほぼ同じ人数であり、8月の16,822人よりも少い。同様に、9月は13,533人、10月は13,493人である。
さらに、世界最大の国際人権NGO法人のアムネスティ・インターナショナルによると、2014年から2017年にかけて、イタリアには623,000人の移民が上陸し、400,000件の亡命申請書が提出され、528,000件が受付システムに登録されたと言う。
"緊急非常事態が宣言されていないにもかかわらず"、190,000人以上の人々を受け入れてきた。過去10年間、その人数はほぼ一定のままだ。
なぜ今、「非常事態宣言」が必要なのかと、メローニ政権に質問を投げかけている。
また、これまでのところ、多くの移民がイタリア領土に上陸し、欧州では最多数であるにも関わらず、なぜか欧州連合で亡命申請を行った人数では4番目に多い国がイタリアであるという矛盾についても指摘している。
昨年2022年のデータでは、亡命申請を行った人数の最多はスペインの116,140人、2番目がフランスで137,505人、3番目がドイツで 217,735人だったのに対し、イタリアは77,195人だった。
2022年の全体では、合計10,865人の外国人が特別保護を受け、亡命申請者の44% が一次保護ステータス、32%が国際的保護の形式を付与され、12%が特別保護ステータスを付与された。
イタリアは、亡命申請が極端に少ない理由の一つに、"外国人に全くその旨を翻訳して伝えていなかった"ことが挙げられる。
右派政党によるプロパガンダ要素が強く、政治的策略であることは数字からも明らかで、移民政策の失敗だと野党は声高に叫び始めた。
野党によると、
「"非常事態宣言"は偽装されたものであり、つまりNGO船舶を止めることは単なる口実である、既に以前、失敗に終わった緊急型の規制・行政運営を帳消しにするために、メローニ政権は、より高い目標を掲げて、本当の緊急・非常事態宣言を誇示することしかできなかった。今回もまた失敗だ。」と非難している。
| 前左派政権の人道的保護の法令を廃止せよ、新「クトロ法令」決議
メローニ首相は「私の目的は、特別保護の撤廃です」と、はっきりと述べた。
前左派政権(第2次コンテ政府)による過度に拡大された特別保護を廃止したいのがメローニ首相である。
その「特別保護」というものは、ヨーロッパの他の国々で起こっていることと比較すると、イタリアの場合は保護の範囲がさらに追加されており、それは度が過ぎているからだという。
特別保護なるものが存在する限り、移民の流れを止めることができない、合法移民の受け入れ拡大や人身売買業者に対する公然たる闘争の強化をするというのが、メローニ首相の主張である。
そして、特別保護に関しては、災害や医療のための居住許可を最小限に制限することを目的とし、左派による過度に拡大された特別保護の廃止と居住許可を取り消すと修正し、「クトロ法令」を上院で決議した。
それ以前の2018年には既に、前内務大臣で現副首相の極右政党同盟のサルビーニ氏が制定したサルビーニ法令というものが存在している。
"サルビーニ法令は、人道的保護を廃止した"
第1条では、庇護の付与に関する新しい規定が含まれており、移民に関する統合法によって想定されていた人道的理由による保護の廃止を効果的に規定している。
・人道的性質、またはイタリア国家の憲法上または国際的義務に起因するものでなければならない。
・深刻な災害による理由または医療目的のため、もしくは紛争などの緊急事態から逃れる人々に居住許可を与える。
・人道的保護は、自国で迫害を受ける可能性があるとき(移民法第 19条)
・労働搾取や人身売買の被害者は国外追放しない。
・就労滞在許可に変換できない。
などである。
第2条では、本国送還のための拘留センター(CPR) で本国送還を待っている外国人は、最大90日間の拘留であったが、その制限を最大180日に拡大した。
第3条は、亡命・庇護希望者はCPRに最大30日間収容して、身元と市民権を確認できると規定している。
第4条は、CPRに場所がなく、治安判事の許可があれば不法移民を国境事務所に拘留することができると規定した。
第5条は、亡命申請のための居住許可を登記所に登録するための資格に変更した。
第6条は、本国送還のためにより多くの資金を配分することを規定した。
(2018年に50 万ユーロ、2019年に150 万ユーロ、2020年にさらに150 万ユーロである。)
国際保護と難民の地位の取り消しまたは否定したものの、このサルビーニ法令は、難民の地位の取り消しまたは補助的な保護を伴う犯罪のリストを拡大したものであった。
リストには、性的暴力、麻薬の製造、所持・密売、強盗・ゆすり、窃盗、強盗、公務員に対する脅迫または暴力などがある。
亡命・庇護希望の申請者が1つでも犯罪を犯し刑事訴訟手続中であった場合、また、有罪判決が下された場合に庇護申請は拒否され停止される。
さらに、難民が出身国に戻った場合、たとえ一時的であっても、国際的および補助的な保護を失うことも規定したものである。
この度決議された「クトロ法令」は、このサルビーニ法令に修正を加えたものであるという。
野党左派反対勢力は、移民に関してメローニ政権が審議した非常事態宣言も強く批判しており、民主党のエリー・シュライン書記官は、「メローニ政権は、移民政策を策定できないことの代償を最も脆弱な人々に負わせている」と不満を漏らし、「メローニは、人身売買業者ではなく、人身売買の犠牲者を攻撃している」と非難、クトロ法案にも強く反発している。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie