イタリア事情斜め読み
海辺の利権を巡りEUはイタリアに対し侵害訴訟の警告
最近また、指令 2006/123/EC (いわゆるボルケシュタイン指令)適用に関する議論とイタリアの海辺の利権の開放についての議論が再勃発している。
イタリアでは、"ビーチの利権"に関する法律について、公の議論で周期的に話題になり、何年にもわたってイタリアと欧州連合(EU)の間で、本当の戦場を代表してきた問題である。
欧州連合(EU)は、単一市場の形成を強化したい。EU統合という大きな目標を掲げ、"サービス自由化指令"に従うよう要請している。
| ボルケシュタイン指令とは
オランダ選出の欧州議員ボルケシュタインの名前からとった欧州のサービス市場の自由化に関する指令案のことで、2006年11月15日に欧州議会で採択され発効した。
発端は、米欧ギャップを埋め、EUにアメリカをしのぐ世界一の競争力をつけさせることで、活発化させていこうというのが第一の目的である「競争法改革」である。
欧州に統一性のある経済政策をベースとした持続可能な経済発展と連帯、加盟国間で協調の方向性を生み出して、欧州各国が共同で推進していくという"新自由主義的"発想である「リスボン戦略」というものがベースとなっている。
ことサービス産業へ特化したものをイメージしたもので、リスボン戦略を実施するにあたって発案された "自由化指令" というものが、このボルケシュタイン指令というわけだ。
ボルケシュタイン指令は、海辺の利権の自由化というテーマを中心に展開しているため、州はその割り当てに対して新しい公開入札を開始する必要が出てきたわけだが、国が徴収する現在の収益と入浴施設の価値とが一致しない可能性が出た場合、欧州指令が適用され、大規模に民営化しなければいけないというリスクがあるのだ。
| 海岸のコンセッション、企業の管理費はいくらなのか?
イタリアがヨーロッパの法律を順守したくない理由。
イタリア商業連盟(コンフコンメルチョ)が収集した2016年から2020年までの5年間のデータによると、現在までにイタリアでは 12,166の海岸のコンセッションが運営されており、国庫に年間平均1億170万ユーロ(約146億6400万円)の資金が集まっている。
実際、何年にもわたってライセンス所有者(海辺の起業家)の管理費は非常に低いままであり、年間支出は2,700ユーロ(約38万9千円)を超えない。
イタリアは、国有財産に属する公共資産であるビーチは、施設にとって非常に有利であり、国にとってはあまり利益のない10年間の譲歩を通じて割り当てられることになると主張している。
現在の法律では、入札の完了に対する客観的な障害が発生した場合、譲歩は2025年末まで有効となっている。
大規模な起業家、金融ファンド、多国籍企業にはそれは有利であり、現在約30,000人の経営者の多くは、ビジネスを開始して運営していくための資金を貯蓄をし、投資計画を立てている。
イタリアの中小企業が入札で競合相手になる可能性はほとんどない。
欧州指令を実施した場合に起こり得る一例として、レッドブルブランドのセーリングとボートの新しい領域にあるマリーナノーヴァ海水浴場がある。
それは、昨年1月に、多国籍企業のレッドブルがトリエステ湾の約120,000平方メートルの海岸線を900万ユーロ(約12億9,650万円)で取得した際に発生した。
レッドブルはサービス提供者ということになる。
ボルケシュタイン指令の当初案をめぐっては加盟国間や欧州議会で大きな議論となっていたが、その一つが、「母国法主義」条項だ。
これを削除することにより合意が成立したという経緯があるのだが、それは、どういうことなのだろうか?
母国法主義とは、つまりサービス提供者(原産国)の国内規定にて従事しもらうという事で、例えば、このレッドブルはオーストリアの企業である。
レッドブルの自国のオーストリア規定をイタリアで課しサービスを提供するという事であり、イタリアとしてはそれを容認することはできない。
現地のサービス従事者の労働条件や労働法・社会保障法は既存のイタリアの法律で国内規定で服するようにするべきある。
レッドブルは劣悪労働条件の企業ではないが、仮にそれが、労働条件の悪い国のサービス提供者であった場合、労働搾取をして劣悪な自国の雇用条件を適応することも可能にするのが、当初のボルケシュタイン指令の「母国法主義」条項だ。
それはソーシャル・ダンピングにつながり容認できないので、「母国法主義」はあってはならない項目、削除されて当然であった。
| 自国企業を保護する経済愛国主義のイタリア
当初よりイタリアの幹部は欧州基準の適用に消極的だった。
2009年、シルヴィオ・ベルルスコーニが率いる第4次政府が 2015年までイタリアの海岸の利用権ライセンスを確認することを決定し、ジュゼッペ・コンテの第1次政府もそれを引き継ぎ、協定の有効性を2033年まで延長した。
州によって保証された権利を譲渡するための手続きは、常に定期的な公開入札を経なければならないとし、「海辺の権利の譲歩については、2033年12月31日まで有効期限を延長する」というイタリア国内の法令を自動更新した形のものであった。
欧州委員会はイタリアにビーチの営業権の自動更新に関するイタリア機関による指令は、EU法と不整合が発生している。さらなる不整合が発生した場合は侵害訴訟の手続きを取ると正式にイタリアへ通知してきた。
それを受け、約1年後、イタリア政府の補助機関である国家評議会は、「2033年までの延長の有効性を無効にし、2年以内に入札を課す」と修正することにした。
この海辺の利権を自動更新を停止させたいと望んでいたのが、コンテの次に登場したマリオ・ドラギである。
マリオ・ドラギは、イタリアの首相に就任する前は、欧州中央銀行(ECB)総裁をしていた非常に欧州委員会よりの人だ。
10年以上にわたってさまざまな政府によって「自動更新はデフォルト」でされていた海辺の譲歩の延長を阻止した。
これにより、ビーチの営業許可の世襲制が事実上廃止されたことになった。
ドラギの停止案が発動する前、2022年の初めに、自動更新をブロックするために介入したのは国務院だった。
法的機関は、ビーチのコンセッションの継続的な延長の明らかな誤りを強調した。
その結果、治安判事は、将来のすべての許可割り当てに対しては公開入札の義務を課し、海岸の利権ライセンスの新しい有効期限を2024年1月1日に設定した。
それと同時に、その後のコンペティション令についても、公開入札を実施するための基準を定めた令の発行期限として2023年2月末日までと設定した。
ドラギ政権は終わり、ジョルジャ・メローニ政権へ。
経済愛国主義のメローニ氏が首相に就任する前、極右政党だのEU懐疑派だなどと言い、イタリアの今後の動向を懸念していた欧州諸外国。
その原因の一つでもあるのが、選挙公約で掲げていた「イタリアの海辺の利権を巡ってEUと戦う」というものがあったからだろうか。
実際、昨年11 月、メローニ首相は、海洋政策局の所有者との綿密な話し合いの後、「ビーチが誰かの手に渡ることで、健全なイタリアの経済構造を破壊し、環境の完全性を危険にさらすリスクを伴うようなことを私は決して許しません。」と、現在の管理者とそのセクターに宛て、"安心するように"との主旨で手紙を送っている。
一方で、EUはコンペティション令を2023年2月中にさっさと決めろと要求している...。
イタリアのビーチの譲歩の公開入札実施についてを決めなければいけないのは、メローニ政権の課題となり、これらの期限を超えないようにするために非常に迅速に行動することを余儀なくされた。
最も具体的なリスクは、欧州連合がイタリアに対して侵害訴訟を開始することを決定するということであったので、急ぐ必要があった。
| 2023年にイタリアが危険にさらされるものは
若者向けの住宅ローン申請期限やスマートワーク、海辺のリゾート向け利権の譲歩まで、いくつかの重要な革新が含まれている「ミッレプロローゲ法令」というものを同時に可決させなければならなかった。
現在の海辺の営業権は2024年12月31日までの延長が含まれていたが、「ミッレプロローゲ法令」は、198票の賛成で承認された。
新しい入札を完了する際に、"客観的な困難"に対処する地方自治体の場合、2025年12月31日まで延長される可能性がある。
公共財の譲歩を検出するための情報システムの採用期限については、2月から7月までの間さらに5回は延長可能。
海辺のリゾートをテーマに、ミッレプロローゲ法令は、新しい入札を開始するために必要な「利用可能な天然資源の希少性」の概念を定義するために、首相官邸に技術テーブルも設立した。
いろいろな法案を同時に何個も可決させたため、どさくさ紛れにすべり込ませている感じは否めないが、それを見逃さなかったのは、国家元首のセルジオ・マッタレッラ共和国大統領である。
「ミッレプロローゲ法令」の法制化に"留保付きで"署名した。
マッタレッラ共和国大統領は、規定の方法とメリットについて"留保"を表明し、政府と議会にビーチの利権に関する法律を改正するよう求め、メローニ首相と上院議長のイグナツィオ・ラ・ルーサと下院議長のロレンツォ・フォンタナに宛て、書簡を送っている。
書簡で、「ヨーロッパの法律と司法の判断と矛盾している。憲法裁判所が何度も言及した内容の均一性の要件に違反している」と、承認されたにミッレプロローゲ法令に含まれる条項が、欧州連合法とは異なることを強調し、国家復興計画と回復力に関連する改革の文脈で、イタリアが行った市場開放に関するコミットメントを想起させた。
欧州連合と国家の板挟みになっているイタリア共和国大統領は、「これ以上の国家譲歩の延期は、欧州連合の規制とは対照的であるため、あまり効果がない」と考えているようだ。
欧州連合もパラダイムシフトを望んでおり、欧州連合はすでに2020年に、さまざまな警告にもかかわらず慣行を変えることができなかったとして、イタリアに公式の非難を送っていた。
「ビーチの営業権だけではなく、EU政策のさまざまな分野に関連しており、EU市民と企業の利益のためにEU法の正しい適用を確保することを目的としているため」という前置きをしながら、EU法に基づく義務の不遵守を行っているイタリアに対して"法的措置を開始する"と警告してきたのだ。
欧州委員会のジェンティローニ委員(経済担当)もこの問題に関する意見を表明し、海辺のリゾート地に対するEUの立場を繰り返し述べ、パンデミックの危機によってすでに深刻な影響を受けているセクターにさらに圧力をかけ、指令を適用し、入札の呼びかけを通じて譲歩を再配分することを目指した。
しかし、企業を保護するための解決策を考慮しない指令の単純な適用は、多くの重大な問題を引き起こす危険性があることも確かだ。
| 「ボルケシュタイン指令とイタリアの入浴施設への譲歩について」
欧州議会議員(MEP)のロザンナ・コンテ氏は、EU議会に質問状を提出した。
"主なリスクは、外国の利益のために道を開かなければいけないということです。自由競争の名の下に、イタリアのビーチにいるすべての中小の起業家に損害を与え、すでに行われた投資については心配しなければいけません。彼らの将来について不安を感じています。"
と言い、
これに照らして、次のように質問した。
質問1. 経営ノウハウ、これまでの投資、企業の商業的価値を考慮して、現在のコンセッショネアに対応できるメカニズムを想定するつもりがあるかどうか。
質問2. 欧州外からの潜在的な投資や利益のために姿を消すリスクを冒している中小のイタリアの起業家の活動を保護する必要性に同意するか。
この質問に対して、欧州委員会の回答はこうだ。
イタリアの法律で想定されている「入浴施設の譲歩」について、延長を繰り返している。
2016年に欧州連合の司法裁判所によって、EUの法的秩序に反するとすでに宣言されているにも関わらず、法の確実性を深刻に危うくしている。
特にイタリア経済にとって重要なセクターは、もはや持続可能ではない。
EU法に反する法的枠組みを課すことで、イタリア法によって拡張された譲歩は常に異議申し立ての危険にさらされており、その結果、現在の譲歩権者は譲許権の有効性に頼ることはできない。
現在のイタリアの法的枠組み(既存の国のコンセッションの自動的かつ一般化された拡張)は、各状況のケースバイケースの評価と、これが正当な場合のコンセッションの投資への保護も妨げている。
サービスの自由化は、投資の償却と投資資本の公正なリターンを保証するライセンス保持者の利益を認識するものである。
したがって、消費者と公的機関の利益のために、イタリアが規制の適切な改革をできるだけ早く進めることが最も重要である。
これを進めるだけでも、セクター内の多数の中小企業(SME)を含むイタリアのすべての事業者が、不確実性や長期にわたる紛争のリスクなしに活動を実施し、投資を計画することができ、同時に保護を保証することができるのである。
という回答であった。
イタリアを欧州連合に加盟させるために閣僚理事会によって提出された競争法案の修正案に含まれるさまざまな提案の中には、「イタリアは、2024年から始まる公開入札を通じて譲歩を与える」という決定事項は既に存在している。
それより前5年間は、施設を主な収入源として使用し、コンセッションにある国有エリアと無料エリアまたは整備された自治体管理下エリアのバランスをとっていかなければならない期間である。
イタリアのビーチの入札と再割り当てに反対する起業家たちはローマの共和国広場でデモを行っていた。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie