イタリア事情斜め読み
戦争の影響、インフレ急上昇中のイタリアにおける家計事情
| イタリアは、GDPは5月に成長したが、インフレは急上昇中
イタリアの2022年の最初の3か月の回復は予想よりも強かった。
国内総生産は、前四半期と比較して0.1%増加し、2021年の第1四半期と比較して6.2%増加。
イタリア国立統計研究所(Istat)の四半期経済勘定に関する統計から明らかになった。
国立統計研究所は、4月29日の暫定的な推定と比較して、5.8%の増加傾向を示し上方推定である。
2022年に取得した成長率では2.6%に相当する。
しかし一方、インフレも急上昇しており、月次ベースで0.9%、年次ベースで6.9%の増加となっている。
エネルギー価格だけでなく、食料品価格も上昇し続けている。
ユーロ圏全体の5月の消費者物価指数 伸び率は8.1%で過去最大を更新した。
| 食料価格の高騰
ロシアのウクライナ侵攻と戦争は、エネルギー市場と農産食品部門を混乱させた
○食品
NielsenIQの調査では、昨年の6月と比較して、種子油+70%増、ひまわり油+43%、パスタ+17%、コーヒー+4%、ズッキーニ+ 16%、エクストラバージンオイル+ 11%、砂糖+ 7.4%の価格上昇。肉+14%、魚+11.1%の価格が2桁上昇していることが示されている。一方、非食品部門では、ペット向け製品も価格が増加している + 7.5%の値上がり。
1kgのパスタは0.22ユーロ(約30.48円)の値上げ。
1ℓのひまわり油は0.66ユーロ (約91.43円)の値上げ。
バターを含む食用種子油(+70.2%)から始まるすべての一般的な食料品の価格はほぼ値上げになり、平均で7.1%増加している。
パンデミックによって引き起こされた経済危機や特定の気候変動、悪天候による農作物の不作で収穫困難なためにいくつかの原材料が不足、それに加えてウクライナの紛争によって、すべてがさらに悪化した。
"1986年3月以来記録されていない記録である"
とイタリア国立統計研究所(Istat)はいう。
ロシアとウクライナ両国合わせると、小麦と大麦は世界貿易の30%以上、トウモロコシは17%、ひまわり油は50%以上、非GM大豆(非遺伝子組み換え大豆)はかなりの割合を占めており、それらはロシアとウクライナから輸入されていた。
現在、これらの製品の取引は実質的に凍結されており、さらに紛争の状況により、ウクライナの農民は春の播種を進めることができなかったため、ヨーロッパの農業会社にとっても中長期的に明らかな悪影響を及ぼすだろうと予測されている。
例えば、夫婦と子供2人の4人世帯で、インフレ率が+6.9%での生活費の増加はかなりのダメージである。
実質、年間で住宅と光熱費で981ユーロ(約13万6千円)の値上げ 、移動交通費は573ユーロ(約7万9,300円)値上げ、食費は561ユーロ(約7万7,730円)など、値上がりの総額では、年間ベースで2.421ユーロ(約33万6000円)の出費増ということになる。
イタリア国立統計研究所ISTATの2021年5月のデータによると、イタリアの一般家族の消費に関する4人世帯の食費の平均金額は1ヶ月あたり470ユーロ(約65,240円)である。
※日本は、総務省統計局の統計データ2021年における4人世帯の食費の平均金額は1ヶ月あたり87,017円。
唯一、このインフレでポジティブな傾向であり、好意的に捉えられている事例がある。
それは、一般家庭から出されるゴミ廃棄物の量が大幅に削減されたことである。この現象はかなり際立っており、昨年に比べるとその量が68%減。
全国消費者連合のマッシミリアーノ・ドナ会長によると、このような影響の背景は、「インフレの飛躍が家族の購買力に壊滅的な影響を与えたからである」と説明された。
| 物品税の削減だけでは不十分
0.30.5ユーロ(約41.58円)引き下げた物品税削減と税率に対するイタリア政府の介入は2022年7月8日まで延長された。しかし、価格は今もなお上昇し続けている。
このため、さらなる対策の拡張が必要になると、経済担当次官のマリア・セシリア・ゲラ氏は、レイニーズ24、マッティーナ24で語り、政府が再び介入する可能性は"非常に高い"と述べた。
「価格を安定させ落ち着かせるために物品税を引き下げ、州の財源を投入する」とゲラ氏は説明し、エネルギーについては「政府はすでに300億ドルの介入を行っている」と述べている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、1970年10月、第四次中東戦争に端を発し、一部の国への石油輸出を禁輸するというOPECの決定後に発生したオイルショックの時よりも「はるかに大きな」危機が発生する可能性があるという。石油危機であった50年前とは異なり、石油、天然ガス、電力の共同危機に直面している。
○ガソリンとディーゼル
物品税の削減にもかかわらず、地中海の石油製品の価格が急騰したため、ガソリンとディーゼルの価格は上昇を続けており、5月31日付けで更新された経済開発省の価格観測所から伝えられたデータに基づくと、セルフモードのレギュラーガソリン平均小売価格は、1リットルあたり2.037ユーロ(約282,96円)から2.049ユーロ(約284,62円) を超えた。
セルフディーゼルは以前は1.821/リットル(約252,91円)だったが、1.973ユーロ/リットル(約274,02円)に価格が上昇した。
サービスステーションの価格が急騰した主な理由は、原油価格の上昇。
5月31日(火)原油価格の急上昇後、石油は再び動き始め、WTI原油先物価格とイギリスの北海ブレントはOPEC+会議に先立ってそれぞれ1.5%上昇し、EU連合がロシア産の石油の輸入禁止で合意したことを背景に一時119ドル台まで上昇した。
EU連合がロシアの石油に関して決定した禁輸措置に関するニュースや、中国での反コビッド規制の段階的な解除も、価格の変動の一因となっていると見られている。
イタリアでのガソリンとディーゼルの推奨小売価格をメーカーごとに見てみる。
-Eni 1リットルあたり0.2ユーロの値上げ
-Ip 1リットルあたり0.2ユーロの値上げ
-Q8 1リットルあたり0.2ユーロの値上げ
-タモイル 1リットルあたりガソリン0.4ユーロの値上げ 、ディーゼル0.3ユーロの値上げ
ロシアは世界の天然ガスの23%を生産し、欧州連合全体の天然ガスの約40%はロシアから供給されているため、エネルギーの側面を加えて考慮する必要がある。
戦争が始まる前の年初から原油価格は徐々に上がっていた。ロシアへの制裁措置だけが原因なのではないが、原油価格は60%以上の高騰へと助長された。
○農業
農業での生産から輸送、加工、保管、そして最終的には小売のサプライチェーンまでが、全てエネルギーに大きく依存している。農業研究経済評議会(CREA)は、イタリアのアグリフードシステムの難しさに関するレポート「ウクライナの戦争関係書類:イタリアの農場のコストと経済的結果への影響」を公開した。CREAの政策および生物経済セクションのディレクターであるアレッサンドラ・ペッセは、イタリアの農家にとって最大の影響は、窒素肥料の生産の主な原料である天然ガスの市場への影響に由来すると言う。これらの肥料の価格は、2021年の終わりにすでに高値であり、今後数か月でさらに上昇し、年間ベースで200%の上昇に達する可能性があると説明した。
基本的であると考えられる6つの支出項目の生産コストの増加が大きい。
リストには肥料、飼料、ディーゼル、種子/苗木、植物保護製品、計測器レンタルが含まれる。農産食品会社の平均的な影響は年間15,700ユーロ(約+220万円)を超えているが、さまざまな生産部門の間で大きな違いがある。
特に、生産コストが65〜70%という大幅な増加率であるのは、エネルギー代と肥料代の増加に伴う複合効果による耕作作物、穀物、園芸が影響を受けている。
そして、次に牛乳の生産で事業を行っている企業、農業用樹木作物と広範な畜産企業が57%増加である。
全国平均では、生産コストの増加は+ 54%であり、特に限界農場の場合、農場の経済的持続可能性に非常に大きな影響を及ぼすという。
現在の国際的経済危機により、10のうち1つの農場が生産プロセスを実行するために必要な費用を賄えなくなってくるだろうと言われている。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie